2019年04月21日18時51分掲載
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文化
[核を詠う](284)新日本歌人協会の2018年度啄木コンクール入選作品「フクシマのいま、そして」、「原爆ドーム」を読む 山崎芳彦
今回は新日本歌人協会(小石雅夫会長)の月刊歌誌「新日本歌人」の2018年6月号に発表された「2018年啄木コンクール入選」作品の「フクシマのいま、そして」(江成兵衛)、「原爆ドーム」(小山尚治)を読ませていただく。新日本歌人協会は『平和と進歩、民主主義をめざす共同の立場から、広範な人びとの生活・感情・思想を短歌を通じて豊かに表現し、将来に発展させることを目指す」(規約)を掲げる歌人団体として月刊歌誌「新日本歌人」を刊行するとともに、全国的に支部を組織して会員、歌誌読者1000名を超える、特徴のある歌人団体として活動しているが、創作方法や短歌観の違いに関わらず、広い歌人、短歌愛好家に門戸を開いて多彩な短歌活動をすすめているという。筆者の友人・知人にも同会に所属して作歌活動に励んでいるすぐれた歌人が少なくない。
同歌人協会は、「日本の近代短歌史のなかで石川啄木がひらき、土岐哀果(善磨)、渡辺順三らが発展させてきた『生活派短歌』の系譜を引き継いでいます。」(入会案内)としているが、毎年の企画として協会の枠を超えて一般からの応募を呼び掛ける「啄木コンクール」を行い、優秀作品を表彰している。2018年度の同コンクールには、123篇(1篇20首)の応募があり、選考の結果、江成兵衛氏(藤沢市)の「フクシマのいま、そして」、小山尚治氏(埼玉県)の「原爆ドーム」が入選作として選ばれ、歌誌「新日本歌人」の2018年6月号にに掲載された。入賞2篇ともに原子力にかかわるテーマの作品であり、核兵器、原発をめぐるこの国の現状を考えるとき、詠う者としての真摯な作歌活動の果実として、筆者は共感を深くした。
「新日本歌人」の入賞作品発表号には、選考結果、さらに選者による選評が掲載されているが、その中から、水野昌雄氏の「啄木コンクール寸感」と題した選評から入選作品に言及した部分を抄出させていただく。
「現代のリアリズムの結実。それは人間と社会の矛盾を深くみつめ、リアルにヒューマンに描いたものだ。そうした視点からの寸感。/『フクシマのいま、そして」は現在の福島の現実が広い視野から着実に歌われて破綻がなく、納得できる作品である。描写がていねいに、よく出来ている。『たじろぐな目を逸らすなと冬の陽が』という訴えも無理なく的確にまとめている。福島の震災の問題点は原発の崩壊であり、その責任の所在が問われるべきものであり、天災などといって済ませるものではない。そうした広い視野からのリアルな表現がまとまっているものだ。ただ、描写が穏やかで少し気力を弱くしているのが惜しまれる。『フクシマの次はオキナワ』などその例。(略)/『原爆ドーム』は拡張のある捉え方をしているが、意外と古風な表現がある。こうした広島をテーマにした作では深川宗俊の歌集や合同歌集『広島』があり、さらに『青史』の百何十冊の広島作品があって、それらの印象が重なってしまう。渡辺順三賞の『連禱』は広く読まれているはず。課題多々。」
2018年度「啄木コンクール」の入選作品を読むことが出来るのは、筆者にとっても喜びである。
◇「フクシマのいま、そして」 江成兵衛◇
凪ぐ海を見つめる観音立像か塩屋岬の白き灯台
六年余見つめ続けたその海に未だ帰らぬ人々のあり
鳴り止まぬ線量計よ我らいま帰還困難区域を走る
校庭に線量計の影長く森閑として子らの声なし
廃校の童子のごとき線量計立ち続けるか世紀を超えて
帰還する人なき庭にたわわにも今年も実る柿の実哀れ
家々に帰還を拒む鉄格子取る人のなき草丈高し
行き場なく積まれ広がるフクシマのフレコンバッグは二千万袋
死の街と言うをためらう我のあり刈田広がり野に花の咲く
海風に津ノ守神社の幟旗「故郷ここにあり」とはためく
後戻り適わぬ選択防潮堤いのち育む磯をを覆いて
「三〇分では語り切れぬ」と言い添えて語気も鋭き山寺の僧
「原発大事故つぎも日本」の大書あり六百年の古寺の本堂
除染され訪う人を待つ六地蔵手を繋ぐごとひっそりと立つ
残生をかけてたたかう裁判の願いはひとつ未来のために
フクシマよ私の町とみな同じ風も光も空の青さも
それぞれにフクシマのいま受け止めて己が明日を見つめいるなり
目に浮かぶ冬満月に照らされたフレコンバッグの黒き累々
フクシマの次はオキナワ訪ねたしCT検査告げられし我
たじろぐな目を逸らすなと冬の陽が癌センターに向かう我を射る
◇「原爆ドーム」 小山尚治◇
曇天のもとにつくばり沈黙す巌(いわお)のごとき原爆ドームは
原爆ドームをよぎりて橋を渡りゆく警笛鳴らし路面電車が
精緻なるアーチを描く鉄骨に切りとられたる広島の空
被爆時のままに煉瓦の散乱す原爆ドームの肉片のごと
被爆地の樟の膚(はだえ)をおおう羊歯 陽ヲモトムルヤ水モトムルヤ
七万の身元不明の被爆者の塚のオガタマ枝くねりたり
寂(せき)とせる韓国人被爆者慰霊の碑 樹間にくぐもる平和の鐘の音(ね)
冬枯れの被爆青桐うねりたる細き枝(え)きしむ癒えぬ疼きに
資料館に焦げたる小さき服あまた被爆せし子の背丈のままに
みどりごの爪のごとくに小(ち)さくひかり禎子の折鶴いのちの凝(こご)る
石段の影になりたる人の名はいずくにあるや生の証は
海軍は壮丁を先に救いしと若きガイドの声硬くなる
ヒロシマの語り部かこむ三十余わかきと異国の人多く見ゆ
核兵器禁止署名につぎつぎと若き手はのぶ口引き締めて
水もとめ倒れし人のくろき影 慰霊碑あまた川ばたに並(な)む
日の暮の原爆ドームの裡深く呻きこもれる闇の重たし
夕陽浴び岸辺を歩む母と子に原爆ドームの影やわらかし
昏(くら)みゆくビル群を背に夕映えの原爆ドームは燠(おき)として座す
被爆者のまなざししずかに尖りゆく無表情なる首相の貌に
ひしゃげたる原爆ドームの鉄の梁 核なき空への道しるべたれ
次回も原子力詠を読む。 (つづく)
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