2019年05月05日09時22分掲載
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政治
国会パブリックビューイング (4月9日)で語られた「働き方改革」とフランスのマクロン改革
4月9日に新宿駅西口地下で行われた国会パブリックビューイングでは非常に重要な問題が語られています。この日のテーマは「働き方改革」は何を目指しているのか?「多様な働き方を選択できる社会」とは?というものです。これはこれまで行われた国会パブリックビューイングの中でもその原点と言ってもいいような必見の内容ですから、多くの方に見ていただきたいと思っています。というのも、この運動の代表をしている上西充子教授が労働の専門家であることにあります。以下がそのリンクです。
https://www.youtube.com/watch?time_continue=1253&v=boeh1PNgPQw
多様な働き方とは一見、いいことばかりのような印象だけれども、その本質はいかに危険か、ということを上西充子教授(国会パブリックビューイング代表)や伊藤圭一氏(全労連の雇用・労働法制局長)がここで説明しています。今、安倍政権が目指している働き方改革は19世紀以後、長い歴史を経て労働者の闘いの中で作られてきた労働基準法や労働法制に穴をあけ、解体することを目指しているのではないか、ということがここで検証されています。
私見ですが、そのことと憲法改正は通底しており、今の憲法に記された個人の権利の規定に様々な形で穴をあけて削っていくことと、労働法に様々な適用除外を設けて労働者の権利を削っていくこととが通底しているのではないか、とすら思われてくるのです。歴史を振り返ると、ドイツで第一次大戦を終結させたのは労働者のストライキでしたが、2015年に日本では安保法制が敷かれたため、いったん戦争とか緊急事態ということに指定されれば放送局も自治体も戦争体制に協力させられることになりますが、おそらく労働組合も活動を制限されるのではないかと思われます。
ちなみにこの労働基準法に穴をあける、ということはフランスのエマニュエル・マクロン大統領が目指してきたことでもあり、今、「黄色いベスト」という運動がマクロン大統領の辞職を求めて闘っていることのそもそもの原点にあるものです。
マクロン大統領は2016年には社会党のオランド大統領のもとで経済大臣をしており、その時、フランス政府は労働法改正を目指していました。改正の本質は先ほどの国会パブリックビューイングで検証されていたことと通じるような労働法の規制緩和です。フランス政府はフランスの誇る週35時間労働法制にも穴をあけようとしていて、たとえば時間外労働の場合の割増率を激減させることを可能にすることもその1つでした。また解雇規制を緩めて、簡単で低コストでかつスピーディに労働者が解雇できるような改革でした。さらに労働組合の力をできるだけそぎ落とそうとしていました。
しかし、この時、フランスでは大きな抗議が起きました。どうして社会党の政府が労働者の権利を奪うような改革を行うのか?と有権者の大きな怒りを呼び覚ましたのです。そして、「立ち上がる夜」という政治運動を生みました。労働法改悪を許すなと市民が立ち上がって大きな騒動になっているさなか、マクロン氏はいち早く経済大臣を辞任し、翌年の選挙に備えて「前進」という新党を立ち上げるのです。労働法改悪の悪いイメージをすべて社会党に押し付けたと言っても過言ではありません。というのも当時、批判の矢面に立たされていたのは社会党のマニュエル・バルス首相と、ミリアム・エルコムリ労働担当大臣だったからです。そしてマクロン氏の新党「前進」は2017年の大統領選と国会議員選で大成功しました。しかし、このマクロン新党の政府でやっていることは社会党政権で試みてきた労働法制の解体をさらに徹底的に推し進めるものです。選挙戦では「右でもない、左でもない」と言っていたけれど、ふたを開けてみると首相にも右派政党である共和党の議員を抜擢し、新自由主義の政策を進めています。昨年11月から続いている「黄色いベスト」はマクロン大統領らの様々な政策に反対していますが、その根っこに労働法制の解体に対する抗議があると思われます。
フランスでは大きな反対運動が生まれましたが、それは労働基準法解体のもたらす悪い影響を指摘する専門家や知識人が一斉に警鐘を鳴らしたからに他なりません。しかも、それは2016年当時与党だった社会党の内部でも起きていたのです。この労働法解体の動きは日本一国だけでなく、フランスも含めて世界で起きている1つの傾向だと言っていいと思います。そして、これは最も重要な現代のイシューだと思います。フランスでは「フレキシブル」と言う言葉がキーワードでしたが、日本では「多様な働き方」という言葉がキーワードになっているようです。
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