2019年05月08日15時18分掲載  無料記事
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「新しい戦前」が始まった 荻野富士夫著『よみがえる戦時体制―治安体制の歴史と現在』  

 本書の帯に大きく「あたらいい戦前」とあります。著者は戦前、戦争になだれ込む時代の治安制度の歴史と現在を重ね合わせながら、今なぜ「新しい戦前なのか」を解き明かします。著者は『特攻警察』『思想検事』(ともに岩波新書)などの著書がある近現代史の研究者です。(大野和興) 
 
 芥川龍之介が「ぼんやりした不安」という言葉を書き残して自殺したのは1927年でした。昭和金融恐慌が始まり、そのまま世界恐慌に続く暗い時代が幕を開け、中国との戦争に突入する、そんな年でした。6年後の33年には、北海道・小樽警察で友人らが受けた拷問を小説『一九二八年三月十五日』で暴露した小林多喜二が東京・築地警察署で特高警察の拷問によって虐殺されています。 
 
 本書の「はじめに」のタイトルは「『来るべき戦争準備』に抗するために」というものです。ここに近現代史を専門とする著者の思いが込められています。そして多喜二に時代のつかみ方を学ぼうと呼びかけます。著者はそれを「戦時体制」と呼び、安保法制などに端的に表れている安倍政権の「戦争ができる国」づくりと重ね合わせます。 
 
 戦時体制とはどういうものか。著者は次のように整理します。国家の危機が煽られ、軍事が最優先される。政治・経済・教育・社会・文化などあらゆる面での統制の強化。それに抗する社会運動や批判が抑え込まれ、人権が縮小、出版言論の統制。 
 
 著者は、戦時体制の形成過程を綿密に分析しながら、現状と重ねます。教育基本法改定、特定秘密保護法、共謀罪、ジャーナリズムへの攻撃、労働者の権利を掲げて闘う労働運動への大弾圧、近隣国敵視と危機の煽り、急ピッチで進む改憲論議などなど。かつての戦時体制と現在の安倍体制との違いは、こうしたことをハードにやるかソフトにやるかだけで、安倍政権はすでに戦時体制に踏み込んでいる、本書を読みながらそんな感想をもちました。 
 
(集英社新書272ページ、定価880円+税) 


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