2019年06月02日19時36分掲載
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検証・メディア
「国会は波静か」なのか? 国会PVの上西教授が記事に抱いた疑問
毎日新聞と言えば優れた報道が少ないくない。とはいえ、時に疑問を抱く記事もある。直近でいえば「国会は波静か 与党が応じず、衆院予算委は3カ月未開催」という5月30日の記事の見出しだ。この見出しに疑問を抱いて、SNSで発信したのが国会パブリックビューイングの代表、上西充子氏(法政大教授)だ。見出しは果たして「波静か」でよいのか、ということだ。ちょっとした言葉遣いに過ぎない、と見る人もいるかもしれないが、ちょっとした見出しにその記者、編集者の見方が集約されている。そして、それが積み重なって世論を形成していくのだ。
上西教授はツイッターで、これについてこうつぶやいた。
<「波静か」ではなく、いくらノックしても居留守で居直られている状態。>
上西教授に真意をうかがうと、次のような答えが返ってきた。
上西教授「毎日新聞のこの記事は、見せ場を作りたい野党が作れずに困っているかのような書きぶりで、問題の本質をあえて隠しています。朝日新聞の5月25日の社説https://digital.asahi.com/articles/DA3S14028617.html?iref=pc_ss_date
は、参議院において野党が委員3分の1以上による『開会要求書』を提出しており、国会の規則によって委員長は委員会を開かなければならないことに言及していましたが、毎日新聞のこの記事にはその言及がありません。野党の正当な要求を与党が不当に拒んでいることを読者にわかりやすく示すことこそが新聞報道の役割です。与党の印象操作に加担するような見出しは政権への忖度の現れであり、報道機関として恥ずかしい振る舞いです。」
上西教授の分析によれば「波静か」という言葉は野党が攻め切れていない、というニュアンスということになる。確かに、波静か、という言葉はこの場合、どこか変だ。これは支持政党が与党か野党かには関係なく、客観的にこの状態を示すのに「波静か」という言葉が適するかどうか、という新聞報道の客観性の問題だ。
「波静か」という言葉で筆者にはある思い出がある。それはかつて東京湾の十六万坪の埋め立てに反対して漁民や屋形船の業者たちが水上デモを行ったことがあった。小さな漁船は100隻近く参加した。ところが、その日の夕刊に、産経新聞は夕日がさす穏やかな東京湾の写真を一面に掲載して「波静か」的な見出しをつけていたのだ。産経新聞の記事はまるでその1日、ずっと穏やかな東京湾だったような印象を読者に与えたのだった。
■上西充子著 「呪いの言葉の解きかた」(晶文社)
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■国会パブリックビューイングを見に行く
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