2019年06月15日10時26分掲載
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コラム
パリで恒例の「詩の市場」 Marché de la poésie 村上良太
パリでは毎年、「詩の市場」という恒例の催しが行われていて、小さな独立系の出版社が多数、ブースを出して詩集を中心に出店しています。それらの詩集は印刷部数も100から1000くらいのものが多いようです。ですから大量出版・大量消費型の出版文化ではなく、むしろ、版画を売っている、みたいな感覚と言った方がよいのです。買いに来る人たちも大量消費型のマス文化よりは、街の人々の日々の文学つきあい的な感覚があります。
「詩の市場」は毎年6月ごろ、パリ6区のサン=シュルピス教会の近くで開かれます。僕の小さな漫画集「パリのクロコビス」もある書店主さんが並べてくださっています。これはバレール書店(Librairie Va L'Heur)のブースです。オーナーの夫婦は以前は書店主でしたが、出版活動もしています。書店主だった、と過去形を使うのは町のリアル書店の方は何年か前に店じまいしてしまったからで、今は出版とインターネット販売が中心です。19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍した前衛作家アルフレッド・ジャリが提唱したパタフィジックという文学運動に参加しています。現実を日常と異なる視点からとらえる、というのがパタフィジックを実践する「パタフィジシャン」の方向性です。
アルフレッド・ジャリ(Alfred Jarry ,1873-1907)はフランスで20世紀に開花した前衛文学や前衛芸術の始祖と見られています。ジャリ自身も「ユビュ王」を始め、様々な奇抜な作品を世に送り出しました。アメリカ人の作家、ロジャー・シャタック(Roger Shattuck)が書いた「アバンギャルドの創始者たち」(Les Primitifs de l'avant- garde )という本を読むと、ジャリがいかに大きな影響を与えたかがわかります。この本では素朴派と言われた画家のアンリ・ルソー、音楽家のエリック・サティ、作家のアルフレッド・ジャリ、そして詩人のギョーム・アポリネールの4人がフランス前衛芸術の創始者として取り上げられているのですが、中でもジャリは中心的な位置にいることがわかるでしょう。アルフレッド・ジャリは19世紀末の権威主義的になっていたフランス文壇に新しい息吹を吹き込んだのです。そうした反権威主義的な精神は、ジャリが起こした文学運動に参加した詩人のジャック・プレヴェールや作家のボリス・ヴィアン、あるいはレーモン・クノーらに受け継がれ、今日のフランスに生きていると思っています。プレヴェールの詩集は今も世界各地で売られていますが、そもそもの始まりは、高校生たちが戦時中に自主的ににガリ版で200部刷ったことにありました。こうした前衛的運動の創始者であるアルフレッド・ジャリを深く愛するバレール書店主もまたパタフィジシャンというわけです。僕はパリに滞在していた頃、バレール書店主が開いていた「文学の夕べ」という催しに足を運んでいて、夫婦と出会ったのです。
パリでは町の1軒の書店でも、本好きでなった人が多く(もちろんそうだろうけど)、自分で本を出版する書店も結構あります。ですから、街の書店は大手配本会社から送られる本を並べるのではなく、自分で本を選んで、時には自分で本を出版さえして自分の好きな店づくりをしています。今では不動産価格の上昇から、書店も利益を相当出さないと経営が難しくなってきています。ですのでバレール書店のようにリアル書店から撤退してしまう店もありますが、それでも6月のこの時期になるとブースを出してリアル書店になるのです。
※"Crocobis a Paris"
https://www.hexaedre.fr/crbst_42.html
村上良太
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■パリの散歩道 シャルルビル=メジエール
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