2019年07月03日19時35分掲載
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コラム
アルバイトと学生と読書のノルマ 〜いかに読んだ風を装うか〜
最近、学生がアルバイトに追われて読書時間を作るのに苦労している、という報道によくお目にかかります。今の学生は学費が昔よりも高くなってしまったことでアルバイトに追われている人が多いようです。国立大学ですらそのうち年間の学費が60万円台になろうという庶民にとっては恐ろしい時代です。学校を終えて3〜4時間ほどバイトを入れると、家に帰ったら10時とか11時とかでしょうし、もっと長いと深夜に帰宅となるでしょう。こうなったら、それから勉強しようとしてもなかなか疲れて難しい本を読む気力もなくなってしまうのではないでしょうか。
僕も、かつて勤労学生で昼間の学校のほかに週5日、毎日7時間働いていました。その頃、毎週、本を1冊家で読んできて話し合う講義があり、その宿題がとても大きな負担になっていたのを思い出します。1週間で1冊読み終えるのが大変なのです。時には分厚い本で前後二巻の時もありました。どうしたら宿題をこなせるのか、と思案しました。まずは読書のスピードを上げる、ということです。スピードが2倍になれば2倍のページが読めるわけです。でも、なかなかすぐにはできません。
そこで窮余の策として僕がとったのが「読んだ風を装う」ということでした。でも、全然読まないわけではありませんでした。今ならウィキペディアなどで梗概を知ることもできるでしょうが、僕が学生時代はパソコンがなかった時代です。なので課題になっている本を買って読むのですが、全部を読めるかどうかはわかりません。時間が切れたら、途中で終わってしまいます。でも、「読んだ風を装う」ためには最後を読んでおく必要があります。そんなわけで、最初の数十ページをまず読む。次に最後の数十ページを読む。その次に真ん中の数十ページを読む。そして、そのあとは空き時間に応じて、隙間を読んでいく、ということにしていました。読んだところには付箋を挟んで、それができるだけ密になれば読んだ空気を醸し出してくれるのです。「そんな読み方は邪道だ」とか、「順番がめちゃくちゃで読んだら理解できないだろう」という声もあるでしょうが、講義の前夜に読んだ部分だけでも頭の中でつぎはぎして、全体の流れをつかんでおく、という整理の時間は持つようにしていました。
本がなかなか読めない理由の1つに最初から律義に順番に読まなくてはならない、という思い込みがあるのではないか、と思います。そして最初の何ページか読んでちょっとでも読みづらいところに来ると、読書が止まってそのまま永遠に「サヨナラ」になってしまうケースがあるのではないでしょうか。そんな時は面白いところまで飛ばしてしまえばいいのです。で、後で飛ばしたところは読むことも可能です。飛び飛びだったとしても、最後まで一応「読んだ」と言えます。10代の頃、トルストイの「戦争と平和」の4巻本を読んでいて、ナポレオン戦争のくだりでトルストイが脱線して100ページ近く歴史の話を長々と続けるので閉口したものです。そこで半年読書が止まってしまったことがありました。こういう個所はそこで挫折するくらいなら、読み飛ばしてもいいのです。
今の時代に学生だったなら、パソコンがありますから、ネットに書かれた本の概要をあらかじめ読んでおいて、部分部分を抜粋的に本で読む、という手を取っていたかもしれません。でも、これも邪道でしょう。とはいえ、もしこれがアメリカの大学だったら、読むように指定される本の量だけでも沈没したはずです。
それでも、インチキ臭いあの手この手で本を読もうとするのも、働いてまで講義を受けているのですから、その講義を無駄にしたくなかったのです。でなかったら、何のために働いているのか本末転倒になってしまいます。振り返って1つだけ言えるのは、学生時代にもっと本を読む時間を持ちたかったし、読んでおきたかったという思いです。これは学生時代を終えてずっと後に実感することです。その意味では学生がもっと勉強にあてられる時間を持てるような制度を作る必要があります。
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