2019年07月07日16時04分掲載  無料記事
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社会

無給医 が2191人 大学病院の「ブラック」体質 根本行雄

 6月28日、文部科学省は、労働として診療を行っているのに給与が支払われない「無給医」が、50の大学病院に計2191人いたと発表した。調査対象とした医師約3万2000人の7%に上るが、まだ各大学が精査中の医師が1304人いて、人数がさらに増える可能性がある。大学病院の「ブラック」体質の病巣は深い。このままでは、日本の医療に未来はない。 
 
 無給医とは、労働として診療を行っているのにもかからず給与が支払われない医師のことである。その多くは、雇用契約を結ぶこともなく、労災保険も未加入である。 
 
 毎日新聞(2019年6月28日)は、次のように伝えている。 
 
 6月28日、文部科学省は、労働として診療を行っているのに給与が支払われない「無給医」が、50の大学病院に計2191人いたと発表した。調査対象とした医師約3万2000人の7%に上るが、まだ各大学が精査中の医師が1304人いて、人数がさらに増える可能性がある。無給医の多くは雇用契約を結ばず、労災保険も未加入だった。各大学は文科省の指導に基づき、給与の支払いや雇用契約の締結を進める。 
 
 大学病院には、大学院生らのほか、自己研さんや研究目的の医師が在籍し、その一環で診療に携わる場合には給与を支払わない慣習が広く存在する。今回の調査では、診療のローテーションに組み込まれていた場合などを実質的な労働だったとし、給与の支払いがない医師を無給医とした。判断は各大学が専門家らに相談して行った。 
 
 調査は1〜5月、国公私立99大学の108付属病院に在籍する医師と歯科医師を対象に実施。昨年9月に診療に従事した計3万1801人(教員や初期研修医を除く)について、同月の給与の支給状況などをまとめた。 
 
 無給医と確認された2191人のうち、合理的な理由なく給与を支払っていなかったのは50病院のうち27病院の751人。契約上は週2日なのに実際は週4日診療しているような例も含まれ、最大2年間さかのぼって支払う。残る1440人は50病院のうち35病院に所属し、無給の合理的な理由はあるが、診療の頻度や内容を踏まえて今後は給与を支給する。 
 
 これらとは別に、66病院の3594人が、ほかの所属先から大学病院で働いた分も含めて給与を受け取っているなど、合理的な理由があり給与を支給しない現状を維持するとした。 
 
□医師の労働環境の劣悪さ 
 
 すでに、「日刊ベリタ」の読者には、医師の労働環境の劣悪さについては報告してある。 
 
 香川県では、「香川県立病院で2016年度の1年間に計2258時間の時間外労働をした勤務医がいたことが6日、毎日新聞の情報公開請求で分かった。3病院の医師計207人のうち67人の残業時間が「過労死ライン」とされる月80時間を超えていた。 」毎日新聞(2017年11月7日) 
 
 岐阜県では、「岐阜大学が労使協定(36協定)の上限を超える時間外労働を医学部付属病院の医師を含む職員らにさせたとして、岐阜労働基準監督署から是正勧告を受け、その後も医師ら34人を協定の時間を超えて時間外労働させていた 」毎日新聞(2018年2月10日) 
 
 東京都では、「日赤医療センター(東京都渋谷区)が医師の残業時間を「過労死ライン」の2倍に当たる月200時間まで容認する労使協定(36協定)を結んでいることが13日、明らかになった。医師20人は2015年9月からの1年間で月200時間の上限を超えて残業。渋谷労働基準監督署は昨年3月、センターに協定を順守するよう是正勧告した。 」毎日新聞(2018年1月14日) 
 
□ 女性医師の職場も「ブラック」だ 
 
 女性医師の労働環境も劣悪である。 
 
「日本医師会(日医)が、出産経験のある女性医師5214人を対象にした2017年調査で、育休を取得しなかったのは2131人(41%)。理由として、複数回答で「制度がなかったため」としたのは719人(36%)と最多だった。 
 
 育休は育児・介護休業法に基づき、労働者が育児のために勤務先を休む制度だ。「雇用期間が1年以上」など一定の条件はあるが、勤務医も対象に含まれないはずがない。」 毎日新聞(2019年1月16日) 
 
□ 働き方改革は抜本的に 
 
 大学病院には、大学院生らのほか、自己研さんや研究目的の医師が在籍し、その一環で診療に携わる場合には給与を支払わない慣習が広く存在いるという。しかし、彼らの多くは、生計を立てるために、他の病院での深夜や休日のアルバイトをしており、アルバイトの掛け持ちをしたりもしている。そのために、うつ病になったり、心身ともに疲労しているのが実態である。そのために、交通事故で無くなった無給医もいるという。これは「過労死」である。このような「ブラック」体質では、今後の、高齢化社会の医療を担っていく人材を確保することはできるだろうか。 
 
 医師は聖職と言われているが、無給医も労働者であると考えるべきだ。患者を診療しながら賃金が支払われないということは労働基準法上も違法である。柴山文部科学大臣は「実際に給与が支給されていない医師たちの存在が発覚したことは大変遺憾で、支払っていないという現状は改めるのが当然だ。こうしたことが起きないように各大学に指導するとともに、これから解明していかなければいけないと回答した大学についても、対応していく」と述べている。厚生労働省は「現在、医師の働き方改革を進めているところであり、大学病院を含む医療機関に対しては医師の労務管理を適正化できるよう支援を行っていきたい」と述べている。 
 
 今後の、高齢化社会のことを考えれば、文字通りの「抜本的な改革」を断行するしかない。抜本的な改革とは、すべての労働者が人間として、基本的人権をもっているということを前提にした改革をするということである。医療もまた、基本的人権を守る営みであることを忘れてはならない。 


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