2019年07月10日18時55分掲載
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コラム
日本の資本主義の危機と冷笑主義の人々
資本主義陣営を支えるはずの経営者やエコノミストの多くが、政府の経済統計の誤りや公文書の隠蔽・改竄に対して行動を起こさないように見えるのはなぜだろう。ますますソビエト連邦に近い権威主義国家になっている日本政府を批判する人をなぜ「左翼反権力」などと言って冷笑する人間がいるのだろう。その人がもしかつてのソ連にいたなら、政府批判をしただろうか。いや、そのようには思えない。ソ連で政府批判をする人を「右翼反権力」と言って同じように冷笑していたのではなかろうか。
このことを考える時、今から7年前の2012年にフェアトレードのPeople Treeらがロンドン証券取引所を占拠した「occupy LSX」のことを僕は思い出す。おしゃれの分野でフェアトレードを始めたPeople Treeの創設者サフィア・ミニー氏は、2012年10月21日のブログ「グローバル経済 − 病んだシステム」の中で、ロンドンでの抗議活動を報じた報道の多くが真相をとらえていないと批判していたのだ。
サフィア・ミニー 「抗議活動に参加している人たちは『反資本主義』であるかのような言い方がされていますが、その大雑把な表現に怒りを覚えます。(この抗議活動のスタート時に公表された声明には、『反資本主義』とはどこにも書かれていません)たしかに私たちは、機能不全の資本主義体制には反対です。人間と社会、環境への負荷をまったく無視しているのですから。原因は(企業の)強欲であり、説明責任が向上すれば、世界にはすべての人が生きるのに十分な富があるという意見に、私が話をした人たちはみな賛成しています。」
ミニー氏のブログの頭には’capitalism is crisis'と書かれた幕を張り、テントに入っている人々の写真が掲載されていた。資本主義を否定しているのではなく、「資本主義が危機に陥っている」という認識だとミニー氏は訴えていた。このことは億万長者のジョージ・ソロスやウォーレン・バフェットも公言していることである。今の資本主義は資本主義の勝者たちの目にも明らかに病んでいるのだ。
大衆の生活があまりにも不安定かつ低収入になれば購買力は衰えるので、消費経済は低迷する。これが今の日本経済の病状であることは明らかだ。また学費が高騰して高等教育が受けられないとか、進学こそできてもアルバイトに追われて勉強する時間が確保できないような学生が増えれば彼らが社会人になった時、本来もっと出せた能力が十分出し切れないかもしれない。
今の政府に反対する人の中には「左翼」と言われる人々もいるだろうが、決してそうしたいわゆる左翼の人ばかりではないと思う。報道の自由や三権分立は資本主義社会が健全であるために必要な条件である。政府のブレーンを務めてきた経済学者の伊藤元重氏も社会主義圏が資本主義圏に対して効率で遅れたのは正しい情報が素早く集まらないシステムだったからだ、と自著の経済学入門で指摘していた。これは正しい指摘である。しかし、正しい情報が素早く集まるシステムは価格が市場の需給で決まることが大切なだけではなく、自由に報道できることも資本主義にとっては車の両輪のように欠かせないものである。統計が正確で公開されることも同様だ。今の日本が正確な賃金統計すら公開できない状態にあることは資本主義国として戦慄を覚える事態ではなかろうか。しかし、冷笑主義の人たちはこれらの問題にはぴたりと口を閉ざす傾向にあるように思えるのだ。
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