2019年07月16日23時39分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201907162339332

欧州

移民問題に関する内務大臣サルヴィーニの発言 〜 チャオ!!イタリア通信(7)

 42人の難民を乗せた非政府組織の船「sea watch 3」が、イタリアのランペドゥーザ島に上陸するのをイタリア政府から禁止され、6月12日から約2週間、地中海で足踏み状態となった。 
 「sea watch 3」の船長であるラケーテ氏は、欧州人権裁判所に難民を上陸させるための申し立てをした。その判決を待つ間、ラケーテ氏はイタリアの新聞のインタビューを受けて、「判決がどう出ようと、難民をランペドゥーザ島に上陸させる」と答える。 
 そのインタビューを受けて、内務大臣サルヴィーニはこう発言している。 
「クリスマス、正月までだって、船は海に留まることができる。安全に関する法律では、船の差し押さえと罰金5000ユーロまで課すことが可能だ。もし、赤信号を渡りたいなら、それは不法行為をしたいということを知ることで、その不法行為のために罰を受けるということを知るべきだ」 
 
 6月25日、欧州人権裁判所はラケーテ船長の申し立てを退け、船の上陸許可を出さなかったものの、「イタリア政府は、難民の中の高齢者や健康上問題のある者は必要な措置を取るように」との判決を出す。 
 この判決を受けて、内務大臣サルヴィーニの発言は、 
「裁判所の判決はイタリアの正当性、良識を裏付けた。港は人を売買する犯罪人たちには閉まっている。そして、その犯罪人たちを助けるものたちにも」 
 
 ラケーテ船長は、ランペドゥーザ島付近に滞留している時に、近くにいたイタリア政府の戦艦にぶつかって、イタリア海域不法侵入と戦艦への追突で逮捕され、シチリアのアグリジェント市で在宅起訴されていたが、7月2日、アグリジェントの裁判所はラケーテ船長を無罪として解放した。 
 その判決を受けて、内務大臣サルヴィーニの発言は、 
「司法の緊急な改革が必要だ。イタリアで刑務所に入るには何が必要か?戦艦の船員の命を危険にさらしたのに。司法をつかさどる人物の緊急な選択、採用が必要だ。これは、これから成長する国にとっては意味のない判決だ」 
「イタリアの司法にとって、法律を無視することと戦艦に衝突することは刑務所に行く十分な理由とはならない。犯罪者である船長ラケーテに対して、自分の国に帰るという処置が準備できた。なぜなら、彼女はイタリアにとって危険だからだ。ドイツという、イタリア人がドイツの警察官に襲いかかろうとしたら、こんな寛大な措置は取らない国へ。私たちは自分の国を守ることを誇りに思っている。また、ヨーロッパの他の国のリーダーたちとは違うということも。彼らはイタリアを自分たちの植民地とまだ思っている」 
 
 以上、「sea watch 3」の出来事に関する内務大臣サルヴィーニの発言を紹介しました。 
 まともな良識を持っている人なら、すぐ気が付くと思うのですが、一国の内務大臣が発言するような内容とは思えません。難民救助という行為と、赤信号を渡る行為を一緒のレベルに置くという、なんとも幼稚な例えからして、尋常な発言でないのは明らかです。 
 彼の問題は「難民=犯罪者」「難民を助けるもの=犯罪者」としていることです。これは、とても危険な思想です。何の根拠もなく、難民たちに敵対する感情を煽ることになるからです。イタリアにおける様々な社会問題を難民に集中させるという短絡的な図式は、大げさかもしれませんが、ヒトラーが人気を得ていった図式と似ていなくもありません。 
 ですが、現在のイタリアは、このサルヴィーニが徐々に民衆の人気を得ている状況にあります。 
 サルヴィーニは、ソーシャルネットワークを頻繁に使用して、自分のくだらない意見を大量に発信しています。それが民衆にとっては、今まで違うレベルにいた政治家が、自分たちの身近な存在になったかのような錯覚を与えていると言えます。 
 政治家は自分の発言にもっと責任を持つべきで、自分の発言が多くの人たちに大きな影響を与えるということを自覚するべきだと思うのです。 
さらに問題なのは、このサルヴィーニと政権を組んだ「五つ星運動」が、政権を維持したいがために、サルヴィーニに対して何もできないでいることです。 
 
 2019年7月12日までにイタリアに上陸した難民は3165名です。国連難民高等弁務官事務所の統計では、4人に1人の割合で難民が地中海で亡くなっています。 
 難民救助は緊急の策であるのは明白です。イタリア市民の良識を信じたいところです。(サトウ・ノリコ=イタリア在住) 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。