2019年08月02日21時57分掲載  無料記事
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検証・メディア

ジャーナリストなら「徴用工」問題の基本的な事実を無視せず伝えろ  Bark at Illusions

 毎日新聞(19/7/11)に歴史修正主義者のコラムが掲載されている。国家公務員共済組合連合会理事長の松元崇氏は、かつて自身が社外取締役を務めた三菱マテリアルの株主総会で聞いた、「韓国の元徴用工の人たち」は日本の炭鉱で働いていたことを「誇りにしていた」という話を根拠に、「徴用工」問題は「事実とかけ離れた虚像」だと主張して、「事実を踏まえた歴史認識」に基づく日韓の対話を求めている。炭鉱で働いていたことを「誇り」にしている「元徴用工」の人がいたとしても、日本政府が大日本帝国時代に植民地の人々に対して強制労働をさせたという事実を否定することはできないのだから、松元氏こそ「事実を踏まえた歴史認識」が必要だが、人から聞いた話だけを根拠に松元氏が「徴用工」問題を否定するコラムを書くのは自由だ。 
 
 否定できない事実をどれだけ並べても、合理的な判断をしない人間というのはいつの時代にもいるものだが、そんな彼らにも何かを言う権利はある。問題は、歴史に対して正直に向き合わなければならないマスメディアまでもが「徴用工」問題の基本的な事実を無視してニュースを伝え、韓国に対する日本政府の恥知らずな対応を支持していること。そしてその結果として、日本社会全体が日本政府や松元氏のような歴史修正主義者の主張が間違っているということに気づかずにいることだ。 
 
 日刊ベリタ(19/7/24)でも指摘した通り、マスメディアは「徴用工」問題を理解する上で最も重要で基本的な事実を伝えることを怠ってきた。国家間の条約で個人の請求権は消滅しないというのが国際的な共通認識であり、日韓請求権協定で個人の請求権は消滅していないこと、さらに同協定で日本政府が行った韓国側への3億ドル分の無償供与は賠償ではなく経済協力であり、それは日本の生産物と日本人の役務という形で供与されたこと。こうした事実を無視した上で、マスメディアは「徴用工」問題は日韓請求権協定で解決済みだと主張する日本政府の見解を繰り返し伝え、問題の責任を韓国政府に転嫁してきた。 
 例えばNHKの主要ニュース番組であるニュースウォッチ9は、問題を解決する責任は韓国側にあるという前提で常にニュースを伝えている。一例をあげると、ニュースウォッチ9(19/7/18)は、韓国国内には日本政府を批判する声がある一方で、韓国のムン・ジェイン政権に対しても冷静な対応を求める声があることを紹介した後、 
 
キャスター、桑子真帆:「日本にいるとなかなか伝わってこないんですけど、韓国の人たちの中には、冷静な人が少なくないというお話、ちょっとほっとしましたね」 
キャスター、有馬嘉男:「ほっとしますよね。……ムン大統領、市民の声を聞いて、事態に向き合ってほしいと思います」 
 
 と述べてニュースを結んでいる。2人のやり取りからは日本側に責任があるという認識が微塵も感じられない。 
 マスメディアの中には、日本政府にも冷静な対応を求めたり、日本企業に影響が及ぶとの理由で「自由貿易」の観点から日本政府が韓国に対して行った輸出規制の強化を批判しているものもあるが、いずれにしても「徴用工」問題解決の責任は韓国側にあるという見解には変わりがないない。 
 このようなマスメディアのPRの結果として、日本社会には韓国政府に対して厳しい対応をとる日本政府を支持する世論が強いようだ。 
 
 日本のマスメディアが元「徴用工」の人たちの人権に焦点当てることは皆無だが、「徴用工」問題の本質は、強制労働の被害者である彼らが未だに救済されていないということだ。日韓請求権協定で個人の請求権が消滅していないということは、日本政府も認めている(日刊ベリタ 同)。問題を解決するためには、そのように認識していながら知らぬ顔をして被害者の人権を踏みにじる日本政府の態度を改めさせなければならないが、そのためには、まず日本社会が問題解決の責任は加害者である日本側にあるという単純で明白な事実に気づく必要がある。そしてそれを手助けするために「事実を踏まえた歴史認識」に基づいてニュースを伝えることが、本来マスメディアに求められている役割だろう。 
 
 マスメディアにジャーナリズムの精神が少しでもあるなら、日韓請求権協定で個人の請求権は消滅していないという事実を書いて見ろ。日韓請求権協定で日本が韓国に対して供与したのは、賠償ではなく経済協力だったこと、現金ではなく生産物や役務だったという事実を書いて見ろ。日韓請求権協定で問題は解決積みだという日本政府の主張は、もう成り立たない。 


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