2019年08月03日12時54分掲載
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コラム
野党が国民連合政府を目指すなら、文教予算の増大も
2015年9月に共産党の志位和夫委員長が野党共闘へと舵を切り、いずれ野党が集結して衆院選で勝ち、国民連合政府を作ると語りました。二度の参院選で一人区を中心に実際に実績を上げ、野党共闘は発展しつつあります。その野党共闘の1つ、国民民主党の玉木代表が今回の参院選の公示前に今後20年で文教予算300兆円を投入する、と語ったことは印象深く刻まれました。しかし、気になったのは「科学技術を中心とした」という文言です。
科学技術の研究に金がかかる、そして科学技術は日本の輸出産業を支えている。こうした「常識」が前提となった発言かと思いますが、文系の文学や人文学も広義で輸出を支えていますし、観光業などとも結びついています。また、たとえ直接に経済成長と直結しなかったとしても地域社会の発展に欠かすことができません。自動車産業などのいつもの「輸出産業」ばかりに限られた日本のリソースを投じることは、野党の未来の政策として健全と言えるでしょうか。
大学院を出て非常勤講師などをしながらギリギリの暮らしをしている研究者が日本には多数存在しており、中には優れた研究を残しながらも生活の苦しみに耐えきれず、自殺をする人もいます。また翻訳者であっても出版不況の中で費用対効果からしたら少ないけれど、翻訳する意義を認めて本来ならレクリエーションの時間を使って地道に仕事を行っている人も少なくないと思います。こうした人文科学とか文学にも予算を増やす必要があります。非常勤講師をしている人々は脱工業化社会の世界では極めて重要な職能を持つ人々と見ることも可能でしょう。将来の発展の芽は彼らの中にあると言って過言ではありません。欧米の技術を模倣してそのバリエーションを量産して稼ぐ、という産業はグローバリゼーションの中でもう成り立たなくなっているのです。
最近、フランスでは脱工業化の中で100年に一度の社会科学のイノベーションの波が起きています。社会科学者による作品も翻訳されて日本に届き始めています。今後は日本の研究者も安心して仕事ができる環境を作ることが必要です。今後政治家が「科学技術を中心とした」という常套句を語るときは、このことを立ち止まって一度、考えて欲しいと思います。
■「野党に聞く」(3) 玉木雄一郎・国民民主党代表 2019.6.12 jnpc
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■イヴァン・ジャブロンカ著「私にはいなかった祖父母の歴史」 社会科学者が書く新しい文学
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■イヴァン・ジャブロンカ氏の日仏会館における講演「社会科学における創作」
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