2019年08月10日21時29分掲載  無料記事
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検証・メディア

NHKの受信料を拒否する十分な理由が、我ら市民にはある Bark at Illusions

 なんともうさんくさい政党なのだが、7月の参議院選挙で「NHKをぶっ壊す」ことを唯一の公約に掲げる「NHKから国民を守る党」(N国)が議席を獲得した。具体的な政策としては、料金を支払った人だけがNHKを視聴できる制度(スクランブル放送)の導入を目指しており、NHKの受信料不払いも呼びかけている。当のNHKは7月30日、「受信料と公共放送についてご理解いただくために」と題する文書を自身のウェブサイトに掲載し、「『受信料を支払わなくてもいい』と公然と言うことは、法律違反を勧めること」になると述べて、「明らかな違法行為など」に対して「厳しく対処」すると警告した。 
 
 NHKは受信料不払いが法律違反であるかのように言っているが、放送法第64条は、テレビなどを設置した者に対してNHKとの受信契約締結を義務づけているだけで、受信料の支払いについては義務化していない。NHKは脅しともとれるこのような文書を出す前に、今回の選挙結果を重く受け止め、自身の放送内容が公共放送としてふさわしいかどうか検証すべきではないか。NHKの受信料の支払い拒否は正当な行為であり、そうするだけの十分な理由が市民にはある。 
 
 NHKは同文書の冒頭で、 
 
「NHKは……『いつでも、どこでも、誰にでも、確かな情報や豊かな文化を全国津々浦々にあまねく伝えていく』という使命を果たすため、みなさまからいただく受信料を財源として、自主自律を堅持しながら、命と暮らしを守り、地域を応援し、日本を世界に発信するなど、公共放送ならではのさまざまな放送事業を行なっています」 
 
などと、恥ずかしげもなく述べているが、本当にそう考えているのだろうか。 
 
NHKが公共放送の役割を果たしていない例はいくらでも上げることができる。 
例えば、日本の平和にも直結する朝鮮半島の平和と非核化を巡るニュースでは、これまでの朝鮮と国際社会の主要な合意を先に反故にしたのは合衆国政府であるにもかかわらず、朝鮮側が一方的に合意を破ってきたかのように伝えて過去の経緯を歪めたり(ニュース7:18/3/7、18/4/21、18/6/12、他、ニュースウォッチ9:18/3/7、18/4/23、18/4/26、18/6/11、他)、米朝間の合意は朝鮮半島の非核化と平和についての合意であるにもかかわらず、朝鮮半島の平和の問題についてはほとんど焦点を当てずに「北朝鮮の核」ばかりを問題にして(ニュース7:18//7/8、19/2/2、19/2/21、19/2/25、他、ニュースウォッチ9:18/7/31、18/9/18、19/2/27、他)、視聴者をミスリードしている。 
 
2017年に核兵器を条約で禁止するための活動を行っているNGO・核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)がノーベル平和賞を受賞した際、NHKの主要ニュース番組であるニュース7とニュースウォッチ9は、広島で被爆したサーロー節子さんが授賞式でスピーチをしたことをニュースにしなかった。人類の存続を脅かす核兵器廃絶を求める活動がノーベル平和賞を受賞し、自身の被爆体験を語り続けてきたサーローさんが演説したというだけでもニュース価値がある。他のテレビ局や新聞各紙などが大きく報じたにもかかわらず、NHKがサーローさんのスピーチを伝えなかったのは、核兵器禁止条約に反対する日本政府に歩調を合わせたからではないかと疑わざるを得ない。 
 
「働き方改革関連法」に関するニュースでは、同法が過労死を助長する危険をはらむものであるにもかかわらず、問題を目立たぬように伝えたり(ニュース7、18/4/6)、働く人の「健康を守る」ための法であるかのように偽ってニュースを伝えている(ニュース7、18/5/25)。また同法の審議過程で厚労相の調査データが捏造だったことが発覚し、同法の柱のひとつだった裁量労働制が長時間労働を助長する可能性が否定できなくなった後も、ニュース7とニュースウォッチ9は、裁量労働制が長時間労働を助長する可能性について言及することを極力避け続けた(日刊ベリタ18/3/1参照) 
 
「慰安婦」問題や「徴用工」問題では、日韓合意(2015年)や日韓請求権協定(1965年)で問題は解決済みだという日本政府の誤った主張を無批判に繰り返し、問題解決の責任を韓国政府に転嫁している。ニュース7とニュースウォッチ9は、日韓合意は当事者である元「慰安婦」の女性らの意向が合意に反映されていないことや、日本政府が拠出した金が賠償金ではなく支援金だったということを全く問題視していない。また国家間の条約で個人の請求権は消滅しないという国際的な認識や、日韓請求権協定で日本側から韓国側に無償供与された3億ドルは賠償ではなく経済協力であり、日本の生産物と日本人の役務として供与されたという重大な事実を伝えることを怠り続け、性奴隷や強制労働の被害者が未だに救済されていないという本来問題にしなければならない事実を視聴者に気づかれないようにして、日本政府の韓国に対する恥知らずな行動を支持する世論を作り出している(日刊ベリタ18/11/27、18/11/7参照)。 
 
またNHKは、中国や朝鮮、ロシアの「脅威」をことさら煽り、「日米同盟」の強化や日本の軍備増強のためのPRを行ってきた。例えばニュース7(19/4/20)は、宇宙における合衆国の軍事力強化や日米の連携強化について伝えているが、その背景には中国とロシアの宇宙進出があると説明している。実際には、毎年ロシアと中国が他の複数の国とともに国連総会で「宇宙空間における軍備競争の防止」などを求める決議案を提出して賛成多数で可決される中、常に棄権するか反対票を投じているのが合衆国政府だ。ニュース7(同)は合衆国が宇宙の平和利用を求める国際社会に背を向けて宇宙の軍事化を進めてきたという事実を無視し、合衆国の軍事化を「防衛」、中国とロシアのそれを「軍事化」、「(宇宙の)攪乱」と表現する合衆国側(パトリック・シャナハン国防長官代行(当時)や合衆国のシンクタンク・戦略国際問題研究所(CSIS)の上席研究員。CSISの主な資金提供者は軍事関連企業で、合衆国政府や日本政府も資金提供している)の見解だけを一方的に紹介して、宇宙戦争は「現実的な脅威として、対応が急がれています」とニュースを結んでいる。 
 
愛知県で開催されている国際芸術祭で「表現の不自由展・その後」が脅迫によって中止に追い込まれた事件は、民主主義の基盤である表現の自由を脅かす重大な事件であるにもかかわらず、ニュース7はその日の出来事を短くまとめたニュースの中のひとつとして、短く伝えただけだ。ニュースウォッチ9は、7日までの時点でこの事件を一度も伝えていない。 
このようなNHKの放送に対する市民の不信感が、今回の「NHKから国民を守る党」の得票につながったのではないか。 
 
NHKは「NHK倫理・行動憲章」の中で 
 
「NHKは、公共放送として自主自律を堅持し、健全な民主主義の発展と文化の向上に役立つ、豊かで良い放送を行うことを使命としています」 
 
 と述べ、「行動指針」の中で、「放送の公平・公正を保ち、幅広い視点から情報を提供」することや、「正確な放送を行い、事実をゆがめたり、誤解を招いたりする放送は行」わないことなどを宣言している。 
 NHKはまず自身が掲げた行動憲章や行動指針に従い、公共放送としての責務を果たさなければならない。そしてNHKがその責務を果たさないなら、私たちは受信料の支払い拒否という市民的不服従で応えることができる。 


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