2019年09月04日22時33分掲載  無料記事
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検証・メディア

昭和天皇が「反省」していたとしても、彼が戦争責任を果たしていないという事実は変わらない  Bark at Illusions

 NHKは、初代宮内庁長官の田島道治が昭和天皇とのやり取りを記録した「拝謁記」を独自入手し、ニュース7は8月16日から4夜連続、ニュースウォッチ9は16日と20日にその内容について放送した。そのうちニュース7(19/8/16)とニュースウォッチ9(19/8/16)は、昭和天皇が平和を望みながら戦争を止められなかったことなどを後悔し、国民の前で反省の気持ちを表明したいと強く希望していたと伝えている。しかしNHKは伝えることを怠ったが、昭和天皇が戦争について反省していたとは思えぬ事実が既に知られている。また、どんなに昭和天皇が反省という言葉を口にしていようとも、彼が自身の初めた戦争の責任を取っていないという事実は変わらない。 
 
ニュース7(19/8/16)とニュースウォッチ9(19/816)は、昭和天皇が手記の中で 
 
「軍部の勢は誰でも止め得られなかつた」 
「(開戦を阻止したり終戦を早めることは)下剋上でとても出来るものではなかつた」 
 
などと戦争への後悔の念を田島道治に繰り返し語っていたことを紹介し、昭和天皇が戦争を望んでいなかったことを強調した後、日本の独立回復を祝う式典で昭和天皇は戦争に対する「悔恨」や「反省」の思いを国民に表明することを望んでいたが、吉田茂内閣総理大臣(当時)の反対で反省の念を示す一節全体が昭和天皇の演説の草案から削除されたというエピソードを紹介して、昭和天皇が平和主義者だったかのような印象を視聴者に与え、彼の罪を消し去ろうとしている。 
しかしNHKは全く問題にしていないが、昭和天皇が戦争について「反省」していたと言っても、戦争の責任を軍部に押し付けて、自分は責任逃れをしているに過ぎない。 
また昭和天皇が戦争について「反省」していたとはとても考えられない発言をしていたことも、よく知られている。例えば、戦争責任について問われた1975年10月31日の記者会見で、昭和天皇は 
 
「そういう言葉のアヤについては、私はそういう文学方面はあまり研究もしていないのでよく分かりませんから、そういう問題についてはお答えができかねます」 
 
と返答し、さらに広島に原爆を投下されたことについても 
 
「こういう戦争中であることですから、どうも、広島市民に対しては気の毒であるが、やむをえないことと私は思っています」 
 
と答えている。 
 またNHKは取り上げなかったが、拝謁記の中にさえ、昭和天皇が反省していたとは思えない記述がある。昭和天皇は1950年代に国内で米軍基地に反対する運動が激化していたことに関して、 
 
「全体の為二之がいいと分かれば一部の犠牲は巳むを得ぬと考へる」 
「誰かがどこかで不利を忍び犠牲を払ハねばならぬ」 
 
などと語っている。 
 この発言について、琉球新報(19/8/21)社説は、 
 
「米軍による沖縄の長期占領を望むと米国側に伝えた『天皇メッセージ』の根本にある考え方と言っていいだろう」 
 
と指摘する。昭和天皇は日本国憲法施行後の1947年9月、「ロシアの脅威」と「日本の内部への干渉」から「日本」を防衛するために、アジア・太平洋戦争で「本土」防衛の時間稼ぎのために「捨石」にした沖縄を米軍が占領し続けることを希望し、「象徴」という立場を超えて、米軍による沖縄の軍事占領を「25年から50年、あるいはそれ以上にわたる長期の貸与というフィクション」として行うことを合衆国政府に提案していた(豊下楢彦著『安保条約の成立』岩波新書)。 
 
 昭和天皇の「反省」という言葉と相反するこのような事実を伝えずに、拝謁記の中から都合のいいところだけを引用し、昭和天皇が戦争に対して「反省」していたとか「悔恨」の思いを抱いていたとばかり強調するなら、それは昭和天皇を美化するためのプロパガンダ放送ではないか。「放送の公平・公正を保ち、幅広い視点から情報を提供」することや、「正確な放送を行い、事実をゆがめたり、誤解を招いたりする放送は行いません」というのがNHKの公共放送としての「行動指針」ではなかったか。 
 公平を期すために拝謁記について伝えたその他のニュース7とニュースウォッチ9の放送内容を記しておくと、ニュース7(19/8/17)は新憲法の下で昭和天皇が「象徴」としての天皇を「模索する姿」を伝え、ニュース7(19/8/18)は昭和天皇が「戦前のような軍隊は否定」しつつも再軍備や憲法改定の必要性に度々言及していたことを、ニュース7(19/8/19)は昭和天皇の皇太子(現在の上皇)に対する「親心」をうかがわせる記述について、ニュースウォッチ9(19/8/20)は戦時中の作戦や判断に対する昭和天皇の後悔を具体的に伝え、さらに拝謁記の「資料的な価値」についても解説している。 
 
 昭和天皇はアジア・太平洋戦争で310万人以上もの日本人を犠牲にし、国家を荒廃させたことについて、国民に一度も謝罪していない。また侵略したアジア・太平洋地域の被害者に対しても一度も謝罪していない。東京裁判では天皇の権威を日本の占領・統治に利用しようと考えていた連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の思惑もあって、昭和天皇の戦争責任は追及されなかった。ニュースウォッチ9(19/8/16)で解説に当たった日本大学の古川隆久教授は、独立回復の式典で昭和天皇が「反省」を表明しなかったことの結果として「責任の在りかをはっきりさせなかったっていうことで、昭和天皇がずっと、崩御するまでそういう責任論を言われ続けてしまった……諸外国との関係でも、そういうことを色々言われてしまうものを残してしまった」と述べているが、それは昭和天皇一人の問題にとどまらず、現在の日本社会にまで禍根を残し続けている。昭和天皇が戦争について「反省」しているからといって、昭和天皇を免罪するのは間違いだ。 
 2000年に行われた戦時の性奴隷の責任を追及した女性国際戦犯法廷で、昭和天皇は有罪判決を受けている。この法廷を取り上げた番組を制作したNHKが、安倍晋三ら政治家などの圧力もあって、内容を大きく改竄して放送したことが問題なったことを記憶している方も多いだろう。 
 
 そんなに昭和天皇が戦争について後悔し、反省をしていたというなら、改めて彼の戦争責任を問う市民法廷を開くのが、彼にとっても日本社会にとっても良いのではないか。 


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