2019年10月08日07時46分掲載
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文化
ハンガリーの巨匠、Tarr Bélaによる "The Turin Horse " ( 邦題「ニーチェの馬」)
ハンガリーの巨匠、BELA TARR( タル・ベーラ 1955〜)の映画「The Turin Horse (邦題 ニーチェの馬)」を見ると、強風ですさんでいくかに見える世界が今の世界の闇を象徴しているのが感じられる。欧州を見舞う異常気象なのか、強い風がやむことなく地上を襲い、馬を使って行商的な仕事を営む家族は陸の孤島に閉じ込められてしまう。
https://www.youtube.com/watch?v=ZNkN_xCXozw
片手が不自由な老いた父親と娘。そこにはほとんど会話もなく、毎日、繰り返されてきたであろう食事の光景があるだけだ。その食事と言うのはジャガイモを1つ煮たものが皿に乗るだけである。そのアツアツのジャガイモを父親は片手で食べるのだ。
なんの前知識もなくこの映画を見たのだったが、映像には想像力を刺激する強い喚起力がある。この世界は少し、チェーホフの戯曲、「ワーニャ叔父さん」を思い出させる。田園で農園を管理し、妹夫婦のために長年、金を送ってきたワーニャ叔父さんが晩年に教授だった妹の亭主が単なる俗物だったことに気づく。いったい何のために自分は青春をこの俗物のために費やしてきてしまったのか。その悲しみを前に、姪のソーニャは「叔父さん、それでも生きていきましょうよ」と呼びかけて劇は終わる。「ニーチェの馬」は、セリフの無いチェーホフ劇のようである。今の日本人もワーニャ叔父さんと大差ないだろう。国のため、美しい日本のため、とうたってきた政党の政治家たちは自分と仲間が金儲けすることしか関心がなかったのだ。日本人の半数はそのような政治を否定する力すら失っている。
真実が人々の目の前に披露される時、その荒々しい心象風景は、このような気象がふさわしい。だが、「ニーチェの馬」は、そのような絵解きではない。もっと不可解な謎をはらんでいる。
※ こちらはタル・ベーラ監督が映画「Satantango」について話している映像。ベルリン国際映画祭で。
https://www.youtube.com/watch?v=dfxzAC3CvLo
世界に出れば、英語が話せれば、このような興味深い人物に出会えるし、話が直接聞ける。
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