2019年11月01日08時02分掲載
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欧州
イタリア民主主義の在り方・・・大統領は審判のようなもの〜 チャオ!!イタリア通信(8)
8月、夏休みで日本に帰っている間、イタリア政局に大きな変化があり、夫は山手線の電車の中でそのニュースを見て、興奮しておりました。イタリアは習慣として、夏に政局が動くことはないのですが・・・・。夏はバカンス、それは政治家たちも同じ、皆バカンスに行くのです。
ところが、今年の夏、与党の一つ「同盟」のリーダー、マッテオ・サルヴィーニが何を血迷ったか、夏も真っ最中の8月、バカンスのために人が賑わうビーチで、内閣からの離脱を宣言。総選挙を見込んでの宣言ですが、やはり、イタリアは夏に政治をしない方がいいですね。ビーチでアルコールを飲みすぎたのか、ビーチで「ファン」に囲まれたサルヴィーニはその熱に浮かされたのか、まともな判断ができなかった結果に終わりました。
このサルヴィーニの宣言を受けて動いたのは、マッタレッラ大統領。というのも、大統領が総選挙をするかどうかを決めるからです。各政党との会談で内閣を作れるのかどうか、総選挙をすべきなのか、それを決めるのはサルヴィーニではなく、大統領に権限があるということを、サルヴィーニは知らなかったのでしょうか。
早速、大統領とコンテ首相と一緒に各政党との会談が始まります。日本には、大統領制がないので、普段は何をする人かわからないのですが、今回の件で、重要な役割を持つ、大きな責任を伴う役職だということがわかりました。サルヴィーニの過ちは、同盟の支持率(現在、ニュース番組などの世論調査では、同盟の支持率は約30パーセント)があがっていることで、自分はすべての権限を持てると錯覚してしまったところです。
イタリアにおける大統領の位置とは、いわゆるスポーツでいうと、審判のような役だと思いました。どの政党にも属さず、さまざまな政党の様子や国の状況を鑑み、判断を下す、とても重要な役割を担っていると思いました。日本のように第一党がすべてを決定してしまうようなシステムより、各政党のバランスがうまく取れる可能性が出てくるシステムではないかと思いました。サルヴィーニの宣言を受けてから、こうした話し合いが続けられていましたが、なかなか国民には伝わってこないので、何をしているんだろう、どうしてすぐに内閣が組まれないんだろうと思ってしまいますが、イタリア人の夫は「話し合ってるんだろ」とのんびり構えてました。確かに、五つ星運動と同盟の内閣が成立するまで、総選挙から3ヶ月ぐらい内閣が成立しない状況が続いても、大丈夫な国ですから。日本人の私としては、何で早く決まらないんだろうと最初は思いましたが、今回の件で、話し合いを重ねて決めていくという、こういう民主主義の在り方もあるんだなと改めて感じさせられました。
現在、判断を過ったサルヴィーニは、内務大臣という重要な役職も失い、一政党のリーダーに戻りましたが、いまだに支持率は高い状況が続いています。ただ、今回の騒動で、サルヴィーニがとった反移民の態度に対する危険性を感じた人々も多いはず。テレビ番組であるジャーナリストが、サルヴィーニが内務大臣の時に取った移民を受け入れないという姿勢にも関わらず、現実には移民受け入れは従来通り続いていたと話しており、やはり人権を守る立場からも受け入れざるを得ないと思います。
さらに、サルヴィーニがロシアのプーチン大統領と会談し、その際資金援助を受けたのではないかという噂もあり、NATOの一国というイタリアの立場を考慮した場合、副首相で内務大臣である人物がそういう行動を取るということは、国際関係においても緊張感を生み出す原因にもなっていました。特に、アメリカに不快感を与えることになりました。
そういった意味でも、今回のサルヴィーニ発言は、墓穴を掘ったというか、五つ星や民主党など左派からしたら、彼を追い出す良い機会になったと思います。現在、五つ星運動と民主党、その他合意のある小政党が一緒に内閣を組み、2020年に向けての経済政策を話し合っているところです。そして、民主党の前リーダー、マッテオ・レンツィは民主党を離れ、新しい党を結成。サルヴィーニは、再び右派勢力との結束を強めています。
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