2019年11月25日22時09分掲載
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森元斎(もり もとなお)著「アナキズム入門」(ちくま新書)
森元斎(もり もとなお)著「アナキズム入門」はこの秋、手に取って読んだのだが、もっと早く読むべきだった。「アナキズム」というと、日本では幸徳秋水や大杉栄などの名前が浮かぶけれど、これらの人たちは明治末期から大正末期にかけて、国家権力によって虐殺されてしまったために、近代思想の中でアナキズムは日本においては大きな空白を占めてきたように僕には思える。日本でアナキズムと言えば、近代途上で消えていった特殊で過激な1流派に過ぎないような印象を持つ人が多いのではないだろうか。確かに、国家権力を否定し、さらにはあらゆる権力にノーを突き付けるという思想は過激であろう。
ところが現代フランスで政治や社会変革の運動を見ていると、アナキズムの思想が底流に根付いていることを感じる。だから、彼らの活動を理解しようとしたとき、アナキズムの系譜とか、思想的発展などに無知であると、大きな空白があることを否応なく知らされることになった。その意味で、森元斎(もり もとなお)著「アナキズム入門」が2017年3月に出版されたことは意味深長に僕には思えるのだ。というのも、パリでは1年前の2016年3月に共和国広場を中心に「立ち上がる夜」(NuitDebout)という政治・社会運動が生まれ、今に至るまでフランスを揺さぶっているからである。そして、この「立ち上がる夜」の中にもアナキズムの精神が底を流れていたことを僕は知っている。
僕は、その参加者に大きな刺激を与えた現代の事件として、NAFTAに抵抗してメキシコの農民たちが立ち上がったチアパスの農民蜂起と彼らの自治があることも知ることになった。彼らが批判するのは、選挙で投票したことをもってもう政治参加は終わった、と考える人々だ。政治とは国家に、政治家に全部委ねてしまったら、好き放題、収奪されるだけだと彼らは考えているのだ。とくに特定のグローバル大企業と行政府が特殊なつながりを持っている今日のような時代である。これらの政治・経済の権力は互いに癒着しながら、自由貿易協定を核とするグローバル資本主義を世界で押し進めている。だから、チアパスの農民たちは受け継がれてきたトウモロコシづくりや地域の暮らしを守るために立ちあがったのである。同様に地域を核とした蜂起があちこちで起きているのである。国家がもう地域の暮らしや農民を守らなくなっているからだ。政治とは地域で自分たちの手で作り出すものだ、という思想がアナキズムである。助け合いの精神も重要な要素である。
このアナキズムが歴史の中で「左翼」とどう関係してきたのか、この辺、僕は皆目無知だった。労働組合との関係もである。本書ではアナキズムの生みの親と呼ばれるプルードンから、バクーニン、クロポトキン、さらにもっと通しか知らないルクリュやマノフといったアナキスト列伝が描かれていて、とにかく入門するには非常にありがたい1冊ということだ。アナキストとボルシェビキの葛藤についても触れられている。残念ながら僕はまだ一読したばかりで、十分に咀嚼できていないのだけれど、本は読みやすい文体で書かれているし、反権威主義的な文体だ。本書を読んでも、別にアナキストになる必要はない(なってももちろんよい)。しかし、アナキズムについて、日本ではあまりにも無知すぎるのだ。
繰り返しになるけれど、アナキズムについて不勉強であれば、今のフランスや欧州のあるいは世界の新しい潮流を理解できないだろう。だから、これから本書をガイドブックに、他にも読んでみたい本がある。
■パリの「立ち上がる夜」 フランス現代哲学と政治の関係を参加しているパリ大学准教授(哲学)に聞く Patrice Maniglier
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■ロシア構成主義の建築物の場所を示したモスクワ地図 「なぜ私たちはこの地図を今、作ったか?」 デザイナーの一人にインタビュー 'Save the Constructivist buildings in Moscow.'
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■シンポジウム 「世界文学から見たフランス語圏カリブ海 〜 ネグリチュードから群島的思考へ 〜」
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