2019年11月30日13時26分掲載
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欧州
解決できないジレンマを抱えた町、タラント〜 チャオ!!イタリア通信(9)
タラントはイタリアの南部プーリア州にある都市です。プーリア州は、山もなく平地でアルベロベッロのトゥルッリなどの観光地もあり、イタリア南部では比較的豊かな州と言われています。私も一度プーリア州のレッチェに行ったことがあります。ギリシャと海を挟んで隣の州であり、ギリシャの影響を大きく受けており、建物が白く、いかにも南イタリアの日差しにぴったりというイメージでした。
タラントはプーリア州の海沿いの街であり、ここには大きな製鉄所があります。イルヴァという会社の製鉄所で、イタリアで最も重要な鉄鋼会社であり、ヨーロッパの中でも製鉄業において重要な位置を占めています。経営不振のため、2018年にはアルセロール・ミッタル社(オランダのミッタル・スチールとルクセンブルクのアルセロールが合併してできた世界最大の鉄鋼メーカー)が経営に乗り出し、現在はアルセロール・ミッタル社のイタリア支社となっています。
しかし、今年11月5日には、このアルセロール・ミッタル社もタラントの製鉄所を手放すという宣言を出しており、今再びタラントの街が話題に上っています。アルセロール・ミッタル社が製鉄所を手放し、閉鎖するとなると、約1万5千人近くいる従業員たちは仕事を失います。従業員たちだけではなく、その家族が路頭に迷うことになります。ただ、製鉄所が原因となっていた深刻な環境汚染も問題で、2013年から2015年に180名のタラント住民が示した請願により、今年1月欧州人権裁判所がイタリア政府を市民の健康を守らなかったとして有罪の判決を出しています。
この環境問題は、調べてみると本当に深刻な問題です。製鉄所から排出されるダイオキシン汚染がひどく、学校が閉鎖になったりしているそうです。タラントに住む母親の言葉で「子どもを学校に行かせたり、外で遊ばせたりすると、悪い母親になる」という言葉を聞きましたが、子どもが普通の生活ができないというのは、その国の将来にもかかわることです。また、あるテレビ番組でタラントの老人(75歳ぐらい)へのインタビューを見ました。この老人は、タラントのサッカーチームの選手で、製鉄会社イルヴァにもサッカーチームがあり、そこでもサッカーをしていたそうです。この人のインタビューで印象的だったのは、チームメイトたちがすべて亡くなっているということでした。
ダイオキシンの排出は、2002年このイルヴァの製鉄所だけで、イタリア全体の30%もの排出量となっていました。また、空気汚染だけでなく、2012年にはイルヴァの責任者たちが汚染物質を不法に廃棄したなどの罪で取り調べを受けており、逮捕されています。それによる、海や土壌への被害も出ており、製鉄所近くの農業や漁業にも影響を与えています。
まず、タラントのニュースを見ると、こうした公害問題がいまだに解決されないということに驚かされます。日本でも60年代、70年代に水俣病やイタイイタイ病、四日市ぜんそくなどの公害病が社会問題になりましたが、それはもう過去のものという印象があります。ここイタリアでは今でもその問題が続いているのです。しかも、タラントにイルヴァが製鉄所を建設したのは、1965年。それから、何年たっているでしょう。今でも、ガンで亡くなる人は跡を絶たず、子どもたちも例外ではありません。この問題を放置してきた歴代のイタリア政府は大きな責任があります。そして、現政権を担う五つ星運動は環境問題を真っ先に取り上げている党なので、まずは環境汚染を失くす政策を示すべきだと思います。それが何もできおらず、タラント住民が大きく失望しているのをテレビで見ました。とても残念です。
イタリアは各地に素晴らしい遺跡などの歴史的財産がたくさんあるので、工業として発達するということも大切ですが、そういったものをもっともっと世界にアピールしていくという方向転換をするべきだと思います。タラント住民も、大きな発想の転換が必要だと思いますが、まず第一に病気の人たちへの援助を政府はすぐに取り組みべきでしょう。
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