2019年12月08日01時40分掲載  無料記事
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コラム

映画「家族を想うとき」 問われる現代の労働のあり方   " Sorry We Missed You "

  9月からの3か月間、複数の仕事を掛け持ちでやってきたことも関係しているのだけれど完全に無休だった。本業の合間を縫って翻訳の仕事をしているという事情も関係している。フリーの立場の仕事の状況はますます厳しくなっていくのだろうか。そんな中、知人から「家族を想うとき」の上映会があるから参加しないかと言われて、寸暇を縫って会場に見に出かけたのだった。 
 
  監督は労働者の生活と闘いをリアリズムで描いてきた英国の名匠、ケン・ローチ。映画は「貸家暮らしを終え、家を建てる」と一念発起した夫が、配送業者とフランチャイズ契約を交わして、ワゴン車を買って配送を始めるのだが、実際にやってみると、1日の配達スケジュールをこなすことが難しい。小便する時間も節約するために車の中に、空のペットボトルを入れておいてそこで用を足している姿は象徴的だった。速さとか正確さとか、確かにユーザーの側に立てば望ましいサービスだが、その実現の裏には労働者たちの人知れぬ苦労があるのだ。1日14時間もの労働で家族で過ごす時間が失われ、一家は急速に危機に陥っていく。 
 
  この映画が成功しているのは、現代の名ばかり独立業者というものを鋭く描いていることだ。いったんフランチャイズに加入したら、事細かなことまで管理され、反したら警告されたり罰金を科されたりする。実質的には労働者に外ならないのだが、フランチャイズ契約で独立業者にとどめておくことで、本社はリスクのほとんどを契約を交わした労働者に転嫁できるのだ。言うまでもなく、この映画のテーマは最近浮上している日本のコンビニチェーンの問題と重なる。とはいえ、コンビニだけが問題なのではない。今ほとんどあらゆる職域で同様の傾向が加速しているのではなかろうか。責任は労働者に押し付け、利益の大半は本社が吸い上げていくというような構図だ。 
 
  世界各地で今、大きく浮上しているのが労働法の規制緩和である。僕が注目してきたフランスでもそうだ。この映画でも独立業者になった夫は自分が経営者という立場になったことで、労働法の縛りを自分自身で外すことを余儀なくされる。これは恐るべきことだと思う。労働法の法整備で労働者の立場を汲む議員を選出して、監視しなくては過労死する人はますます増えるだろう。そして「過労死」は日本の名物ではなくなろうとしているらしい。そもそも自分で自分を管理するのはもともと難しい。だから、このテーマは国境を越えて論じ合い、情報を交換して、安心して過ごせる法整備をすることが大切だ。この上映会を行ったのは「わたしの仕事8時間プロジェクト」というグループである。上映会の後にディスカッションもあり、今話題になっているウーバ―イーツの組合員も参加していた。大変活気のある討論ができ、登壇者の方々もそれぞれ優れた知性や経験、そして感覚を持っておられて、聞いていて刺激的だった。 
 
※映画のトレイラー(予告編) 
https://www.youtube.com/watch?v=C0nTNWILxww 
https://www.youtube.com/watch?v=8mkIMB9INwg 
 
※「わたしの仕事8時間プロジェクト」 
http://union.fem.jp/ 
 
●登壇者 
上西 充子 法政大学教授 
西口 想 ライター・労働団体職員 
北 健一 ジャーナリスト 
川上 資人 弁護士 
菅 俊治 弁護士 
 
 
 
村上良太 
 
 
 
■フランスの現地ルポ 「立ち上がる夜 <フランス左翼>探検記」(社会評論社)  村上良太 
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