2019年12月19日14時49分掲載
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コラム
大企業の経営者目線の朝日新聞の経済記事
最近、毎日新聞が安倍首相の懇談会を欠席して自由に記事を書く選択をしたことで朝日新聞から毎日新聞に替えた、というメッセ―ジを目にします。こう書く僕自身も元日から毎日新聞に替える手続きを下ばかりです。朝日新聞と言えば「左」という風に見られていますが、経済記事を見る限り、新自由主義を進める自民党の主張と大きく離れていない印象を受けます。雇用の不安定化などを招いている自由貿易協定もずっと推進の立場です。
実は2008年から2009年にかけて、リーマンショックの裏にあった米金融の崩壊を取材していた時、国際経済学会のある教授から、「最近の朝日新聞の経済記事はひどい」という話を耳にしたものです。もう今から10年も前の話です。ひどい、というのはネオリベラリズムが基調にある記事を書いている、ということに外なりません。格差社会を作ったものこそ、このネオリベラリズム(新自由主義)です。
最近で言えば、フランス政府の年金改革への労働者たちの反対デモの報道でも、デモをしている労働組合の人たちは既得権を守るために反対している、という印象を与えています。また、交通機関の労働者のデモで人々が移動に困っている、という型通りの記載(クリシエ)を末尾において締めくくっていました。なぜデモをしているか、という人々の視点がほとんどありません。またデモで困っている市民を記載する時に労働者の責任、という風に印象付けていて、労働者の要求に答えない政府の責任という印象はまったくありません。フランスの労働者の側には基本的に立っていないのです。
アベノミクスが始まって半年以上が過ぎた2013年の終わり近くからアベノミクスの効果が出ていないことが顕著になってきましたが、長い間、アベノミクスがこれから効果が出そう・・・という印象を与えてきたのも朝日新聞です。たとえば実質賃金が上昇していないという一面の記事を出した同じ日の経済面では主要百社のアンケートを大きく出して、アベノミクスで景気がよくなっているという大企業経営者の声を伝えて、それらを合わせ読むと、この先、トリクルダウンが来るのかな・・・と感じさせる新聞づくりをしていました。安倍政権の間、朝日新聞の経済記事の基本的なスタンスはこういうものだったと思います。アベノミクスが安倍首相の改憲運動を支えた動力源でしたから、朝日新聞は一貫してそれを支えてきたと言って過言ではありません。この傾向が続けば、遠からず朝日新聞は大衆的基盤を毎日新聞に奪われ、フィナンシャルタイムズのような比較的高所得者向けの数十万から100万部くらいの新聞になると思います。
僕がこう書いたとしても朝日新聞がどのような記事を書くかは朝日新聞の自由です。経営者の側に立っても問題はないのです。ただここで指摘しておきたいのは朝日新聞のイメージと実態に乖離があるのではないか、ということなのです。特に経済記事はそれが顕著です。消費税であれ、自由貿易協定であれ、1%の側に寄り添っているように思えます。それは広告費が欲しいという事情もあるのかもしれませんが、そうすることで99%の人々から遠ざかってしまう、そういう二極化の中にあります。今それぞれの新聞やメディアがどう自らの位置を選択するか、ということはこの先の明暗を分けることになるでしょう。朝日新聞は安倍政権との親和性は高いと見ています。
12月11日に朝日新聞に「金融界のモラルを憂慮 ボルカ―元FRB議長死去」という見出しの「評伝」記事がありました。ポール・ボルカ―は元FRB議長で、1990年代のバブル崩壊後に経済の取材をしていた頃を思い出して懐かしく読みました。書いたのは今は編集委員になっている山脇岳志氏です。かつて山脇氏の書いた金融業界のバブル崩壊に関する本を読みましたが、非常によく取材して情報が詰め込まれた優れた本でした。この記事でもボルカ―氏がリーマン・ショックの後に設定した金融規制のボルカ―・ルールは骨抜きにされてしまったことを痛切に思っている感じがうかがえます。山脇氏はボルカ―氏の思いを汲んで書いていますが、もし朝日新聞の編集部が山脇氏のような視点を持っているなら、フランスにおける政府と労働者に関する記事もまったく違ったものになるのではないかと思います。
■本山美彦著 「金融権力 〜グローバル経済とリスク・ビジネス〜」
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■マクロン大統領と金融界 マクロン大統領の政権の本質を理解するには本山美彦著「金融権力」が不可欠
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■フランスの現地ルポ 「立ち上がる夜 <フランス左翼>探検記」(社会評論社) 村上良太
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