2019年12月27日23時54分掲載  無料記事
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コラム

現代日本の「凡庸な悪」  NHK独立検証委員会の設置を

  2016年の夏、それまで筆者が世界の民主主義の運動を取材してきたNHKのドキュメンタリー番組が終了となり、その後に出会ったNHKのプロデューサーたちから「もう構造を描く番組はいりません」とか「知識人の言葉はもうドキュメンタリーには必要ありません」あるいは「面白いシーンだけあればOKです」などと立て続けに言われたので衝撃を受けた。当該テーマに関して個別・各論的に語られたのではなく、一般論的に言われたのである。 
 
  2016年夏と言えば今年をもって退任する石原進氏が経営委員長に就任した時期だ。石原氏は経営委員長としてNHK会長を通してクローズアップ現代+の制作現場に大きな圧力をかけたことが最近、毎日新聞でスクープされた人物だ。かんぽ生命保険の不正販売を報じた「クロ現+」に日本郵政グループの抗議を受けたとしてNHK経営委員長らが圧力をかけた事件である。その石原氏が経営委員長に就任した頃に企画の募集要項とか選抜の方針が大きく変わったのである。筆者が対面したNHKのプロデューサーたちは自分の言葉を語っていたのではなく、上司から言われたことを私たちインデペンデントの製作者に語っていたのだと思う。第二次安倍政権以降の中でも、特に2016年夏から2019年暮れまでの、この時期にNHKの内部でいったい何が起きていたのかは、もっと多くの証言を重ねなくては総体を知ることはできないのだ。 
 
  NHKは放送局の中でもっとも霞が関の官僚に近いメンタリティの人が集まっている。組織も巨大だし、上の人間を忖度する人も多い。今、野党共同で官僚たちに説明を求める会合とか、国会での質疑応答で登場する官僚たちの中に〜とくに地位の高い人々の中に〜安倍政権の側に立って国民の資料や記録を廃棄して、政府の行動を国会議員がチェックできないようにしている人々が目立つ。これらはハンナ・アレントが書いた「エルサレムのアイヒマン」で追及された「凡庸な悪」の21世紀と言えるだろう。ナチスの時代よりも、現代の方が「凡庸な悪」の持つ危険性ははるかに増している。というのも原子力発電の事故のように、あるいはデジタル技術が経済に広範に関わっているように、システムが1つ狂えば日本人の絶滅とか半減といった出来事になりうるシステム的なリスクが高まっているからだ。一見地味に見えるが、農薬も生存の大きなリスクとなっているのだ。国民の安全とか、平和あるいは人間的な生活よりも、権力者や上司の利益を優先する官僚や放送官僚たちが増えている事は日本人の生存に対する重大な脅威となっている。もちろん、日本人だけでなく、この国に暮らす様々な人種や国籍の人にとっても重大な脅威なのだ。 
 
  そのリスクを減らすことは急務だと思う。必要なことはこのような価値の優先順位を間違えているNHKの放送官僚や霞が関の官僚たちが、どのようなプロセスで育成されてきたのか。また彼らの人生の中でどのような出来事があり、どのような自己形成が行われてきたのか。公共というものを彼らはどう理解しているのか。彼らが今まで生きてきた過程を社会学者やジャーナリストらが調査して、現代の凡庸な悪の再生産のプロセスを分析し、公にすることが日本の未来のために必要だと思う。彼らを悪として糾弾することよりも、彼らがどのような人間なのか、その人間形成を理解することの方がはるかに有益で面白いことだと思うのだ。そこでNHKに関して言えば、第二次安倍政権以後のNHKの報道を総務省や官邸、その他の既存の権力から独立した立場で検証する独立検証委員会の設立を提案したい。NHK経営委員の人選や会長の資質についても広く国民的な議論が必要だ。 


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