2019年12月30日20時53分掲載  無料記事
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地域

水脈断ち切り62万人に影響するリニア工事に静岡県が「待った」 樫田秀樹

 東京(品川)と名古屋をわずか40分で結ぶJR東海の「リニア中央新幹線」計画。2027年に開通予定ですが、大幅に遅れると予測する人は少なくありません。最大要因の一つは静岡県で工事が始まっていないことです。 
 
 2013年9月、JR東海は、計画沿線での環境アセスの結果をリニアが通過する1都6県(東京、神奈川、山梨、静岡、長野、岐阜、愛知)で公表すると、静岡県民が驚いたのが、県北部の南アルプスでのトンネル掘削工事が地下水脈を断ち切り、県最大の水源、大井川の流量が「毎秒2トン減る」との予測でした。これは大井川を水源とする中下流域8市2町62万人分の水利権量と同じ量です。 
 
 この予測に川勝平太県知事は、2014年、県と有識者とJR東海とが協議する「中央新幹線環境保全連絡会議」を設置。年数回の不定期開催ですが、難波喬司副知事が中心となり「失われた水は全量大井川水系に戻せ」と訴え、4年も経った2018年にようやくJR東海は「全量戻す」と明言しました。その後、県とJR東海は資料をやりとりして、2019年9月に難波副知事は「ようやく議論のスタートに立てる」と一定の評価をしたのです。 
 
 ところが、どんでん返しが起こります。10月4日の会議でJR東海は「トンネル湧水が起きても、大井川の流量に影響ない」と発言したのです。難波副知事は「この5年間の話し合いを振出しに戻した。何を考えているのか」と不快感を露わにしました。 
 私もJR東海の宇野護副社長に「中下流域への水資源の影響をどう考えるか」と尋ねると、回答は「トンネル掘削の場所から100キロも離れていれば影響はない」というものでした。 
 
 後日、8市2町のひとつ、掛川市の松井三郎市長は「水枯れや地下水低位などの影響が出ることを前提に話し合わねば、本当に、市の生活用水、工業用水、農業用水がなくなる」と深い懸念を示しました。いずれにせよ、県は当分の間着工を認可しないはずです。だがそれは、住民軽視をするJR東海自身が招いた結果なのです。 
(かしだ・ひでき ジャーナリスト) 


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