2020年01月12日12時42分掲載
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コラム
台湾総統選と若者たち
11日の台湾の総統選で独立への道を志向する民進党の蔡英文氏が再選を果たした。蔡氏が前回、総統に選出されたのは2016年1月で、大きなきっかけとなったのが2014年3月に起きた台湾の大学生たちによる議会(立法院)の占拠・立てこもりだった。この立てこもりをなぜ若者たちが起こしたかと言うと、当時与党だった国民党が秘密裏に中国政府との間でサービス分野も含む自由貿易協定を締結し、数に物を言わせて立法院での議論もほとんどないまま批准の強行採決を目指していたからだった。若者たちは強行採決阻止を狙って、数十人で立法院に突入した。若者たちを守ろうと多くの人々が台湾各地から集まってきて立法院の周りにテントを張って応援していた。結果として、この若者たちの行動が台湾の政治を大きく変えることになった。
この時のことを思い出すと、今、蔡英文さんの再選の報道を日本で見た時に、ねじれた印象を受けてしまう。それは何かと言うと、台湾の人々の夢は長い間、一国一城の主として、たとえ小さな飲食店であろうと、自分の店は自分で自由に経営したい、という価値観を持っていたらしいことである。そういう話を何度か耳にしたのである。だから、もし中国企業が台湾の飲食業界に参入したら、安さで飲み込まれてしまう恐れを感じた人は少なくなかったらしいのだ。中国とサービス貿易協定を結んでしまったら、もう誰も「主」ではいられなくなり、大企業の「一従業員」にしかなれなくなるのではないか、という不安である。
この台湾の小さな屋台の店の一国一城の夢と、大陸中国の巨大チェーン企業との対比は、日本にたとえると、小さな料理店や商店が大資本のチェーンレストランやコンビニに席巻され、その傘下に収まっていったこととよく似ているように僕には思える。大阪で深夜営業を拒んだコンビニのオーナーがチェーンの本部から解約されたという報道を最近読んだ。チェーンに参加することで商品やサービスで大きなメリットがあることも確かだろうけれど、その一方で、自分の店なのに営業時間すら自分の自由にできない、という縛りがある。この大阪のコンビニのオーナーの思いは、台湾の人たちの「独立」していたい、という思いと重なるような気がする。日本政府が自由貿易協定を広げて行ったことで、日本では小規模の商売が生き延びるのが難しくなっていったのである。だから、僕は台湾のニュースを聞くと、複雑な思いに駆られる。
村上良太
※毎日新聞1月12日付けの記事では、蔡政権は日本が主導する環太平洋パートナーシップ協定(TPP11)への参加を強く望んでいると書かれていますが、台湾の民衆の本音の部分を書いていないように筆者には感じられました。中国とアメリカのはざまに立たされた台湾の地政学的な厳しい状況がその背景にあることを割愛して、あまりにも単純化している気がします。相手が中国であれ、日本であれ、米国であれ、自由貿易協定の締結によって、自分の地域の環境基準が影響されたり、地場の商売が大資本に圧倒されたりすることを台湾の人々は望んでいないと思うのです。
※契約解除のセブン元オーナー松本さんが法廷闘争へ
https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202001060000576.html
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