2020年01月21日15時53分掲載
無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=202001211553492
コラム
フランスの年金制度改革へ女性たちが反対を示す踊り 「マクロンのせいで〜」 踊る女性たちに聞く
マクロン大統領たちの年金改革に反対しているAttac（アタック）フランスの声を昨日伝えましたが、アタックはもともと金融の規制緩和が経済にダメージを与えている根源だと考えてきました。このアタック・フランスにとって、金融界の出身であるマクロン大統領はまさに、そうしたシンボリックな政治家です。昨日、アタックのロドリゲスさんが指摘したことはこの年金改革で最も生活がダメージを受けるのは女性の非正規労働者だという話でした。そのこともあって、アタックの女性たちは、マクロン大統領の年金改革を風刺するダンスを始めました。タイトルは「マクロンのせいで〜」。この運動のリーダーの一人、山本百合（Youlie Yamamoto)さんは日本人の父親を持つ日仏混血のフランス人です。ダンスの最前列で踊っています。
※「マクロンのせいで」BFMTV
https://www.youtube.com/watch?v=bIa-Ncb2KgM
この短い映像でも、マクロンの年金制度改革では、女性労働者が最大の犠牲者である、と説明されています。
山本百合さんからは、この年金改革について、次のようなメッセージを送っていただきました。山本さんはフランスの財政（とくに徴税）を担当している現役の官僚でもあります。
「マクロン大統領の年金改革で、私たちはもっと長く働かなくてはならなくなるでしょう。（4年間は長く働くことになる可能性があるのです）しかし、受け取ることができる年金額は今より減るのです。現在のフランスの年金制度は経済的に実現可能なものです。それは第二次大戦後の復興の時期に、（対独の）レジスタンス協議会によって築かれた連帯の精神に基づく制度です。しかし、マクロン大統領は新しいシステムを作り上げ、連帯の原則を根絶やしにしようとしているのです。そしてこの年金制度の変更によって年金受給額が削減された人々はもっと弱い立場に立たされます。それにより、金融企業や資産マネージャーたち（※Black Rock：Attacの女性たちのダンスに出てくるのがこの企業名)に年金市場への民間参入を促そうとしているのです。というのも、マクロンの年金制度改革のために、乏しくなった年金受給額を補完するために人々が民間金融機関で積立を行うことを余儀なくされるであろうからです。」
フランスと言えば女性政治家が男女半々に近い比率で存在していますが、実社会ではまだまだ女性の賃金は男性よりも低いのです。しかも、Attacの人たちが言っているように、非正規雇用に従事している女性が多い、ということが背景にあります。日本の某大手の新聞の記事を読んだ限りでは年金改革で既得権を持っている企業の組合員たちが反対しているかのような印象でした。あるいは、ダンサーなどの芸術家とか。しかし、この年金改革の焦点は、そうした細かい企業単位や業種単位の損得みたいな話ではなく、もっと大きなテーマだと彼女たちは訴えているのです。
※ブラックロック
「ブラックロック（BlackRock Inc.、NYSE: BLK）は、世界最大の、資産運用会社であり、シャドー・バンキング・システムである。2014年末、政府系基金協会（Sovereign Wealth Fund Institute）が、ブラックロックの運用下にある資産の65％は機関投資家由来であると報告した」（ウィキペディア）
運動ではブラックロックだけでなく、アクサやソシエテジェネラルなどの金融機関が批判の対象となっている。
※以下は山本百合さんからの英文のメッセージ
Youlie Yamamoto "With the plan to reform macron's pensions, we will have to work longer (up to 4 years more) to reach fewer pensions. The current pension system is economically viable and is based on a solidarity system created by the national resistance council after the second world war in a ruined country. Macron wants to set up a new system which destroys the principle of solidarity and will make people who will receive lower pensions more vulnerable, to allow financiers and asset managers (BlackRock) to recover the pension market because people will be forced to subscribe to a private supplementary pension because nobody will be able to have a sufficient pension to live if the new system is implemented"
■日本の大メディアによる、フランスの年金改悪反対デモの伝え方 朝日新聞もNHKもデモへの冷笑的視点で描いてきた
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202001202020581
■フランスからの手紙１９ フランスのウーマンリブ創設４０周年〜７０年以後のフランス女性の地位について〜La situation des femmes en France depuis 1970 パスカル・バレジカ
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201011030038273
「１９７４年以来、男女間の給料の格差をなくすために４本もの法案が通されたが、未だに男女間の収入の差は厳然と存在する。複数の統計によれば同一労働をした場合でも女性の収入は男性より平均で２７％低い。」（2010年の寄稿）
■フランスの社会学者メラニー・ウルスさんの見つめる日本の「貧困」
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201912170158472
Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。