2020年01月28日09時11分掲載
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検証・メディア
マスメディアが否定する制裁緩和こそが、朝鮮半島を非核化するためには必要だ Bark at Illusions
朝鮮のキム・ジョンウン委員長が米国政府の「勇断」を「忍耐強く」待つのは昨年末までだと宣言していたことや、その年末に開かれた朝鮮労働党中央委員会総会でキム・ジョンウンが「守ってくれる相手方もいない公約に我々がこれ以上、一方的に縛られる根拠はなくなった」などと述べたことなどから、朝鮮半島の平和と非核化を巡る米朝交渉の今後の行方が懸念されている。マスメディアは非核化や米朝交渉に対する朝鮮政府の姿勢を疑い、米国のドナルド・トランプ大統領に対して朝鮮との交渉で「安易な妥協」を行わないよう求めているが、朝鮮半島の非核化を実現するためにはその「安易な妥協」こそが、求められている。
マスメディアは、キム・ジョンウンが昨年の朝鮮労働党中央委員会総会で米国政府が朝鮮に対する敵視政策を続けていることを理由に「守ってくれる相手方もいない公約に我々がこれ以上、一方的に縛られる根拠はなくなった」と述べ、「世界は……新しい戦略兵器を目撃するだろう」と予告したことについて、
「非核化への意思を疑わせる言動で、受け入れられない」(毎日 社説 『挑発強める北朝鮮 非核化の後戻り許されぬ』 20/1/5)、
「トランプ米大統領との中止の約束を破棄するとちらつかせ、制裁解除の譲歩を得るねらいがあるとしたら、無駄な駆け引きというほかない」(産経 社説(主張)『金正恩氏の演説 無益な駆け引きはやめよ』 20/1/3)
などと問題視し、
「トランプ氏が北朝鮮との外交成果を焦り、安易に歩み寄らぬよう、日本は繰り返し米国に訴えていく必要がある」、
「現状では制裁緩和に応じられないというメッセージを国際社会が一致して送るべき時である」(毎日 同)、
「完全な放棄が確認されるまで制裁緩和はあってはならない」、
「トランプ氏は金氏について『約束を守る男だと思う』と語ったが、甘い顔をするのはもうやめるべきだ。
北朝鮮の真の非核化の実現には経済、軍事両面で『最大限の圧力』路線に戻るしかない」(産経 同)、
「短距離弾道ミサイルを問題視しないトランプ氏の姿勢も、北朝鮮による相次ぐミサイルなどの実験を招いたのではないか。功を焦った安易な妥協はむしろ危険を高める」(日経 社説『北は非核化で後戻りするな』 20/1/3)
などと、トランプ政権が朝鮮に対する制裁を維持することを求めている。
しかし米朝両政府が朝鮮半島の平和と非核化を約束した2018年6月のシンガポール合意に従うなら、キム・ジョンウンの主張は正論だろう。
シンガポールでの首脳会談では、トランプが「朝鮮の安全の保証」を約束し、キム・ジョンウンが「朝鮮半島の完全な非核化」に向けた責務を再確認、そして両首脳は「新しい米朝関係の構築」と「朝鮮半島の永続的かつ安定的な平和体制の構築」、「朝鮮半島の完全な非核化」、「戦争捕虜や行方不明兵の遺骨回収と返還」に向けて行動することで合意した。朝鮮政府からすると、米国から侵略されることがないとの保証を得ることができたからこそ、核兵器を放棄する決断をしたのであって、シンガポール合意に反して米国政府が敵視政策を続けるなら、朝鮮政府も米国による侵略を抑止するために開発した核兵器を放棄することはできないだろう。
マスメディアは米朝交渉について伝える際、いつも朝鮮側の言動ばかりを問題視しているが、米国政府の行動にも注意を払わなければならない。国連制裁決議が朝鮮に対してあらゆる射程の弾道ミサイルの発射実験の停止を求めていることや、ミサイルの発射実験自体がシンガポール合意に反することなどから、昨年5月からミサイル実験を繰り返している朝鮮政府を批判したいという気持ちは理解できるが、米国政府も韓国との合同軍事演習を行ったり、ステルス戦闘機F35 Bなどの最新鋭兵器を韓国軍へ納入するなどしてシンガポール合意に反する行動をとっているのだから、朝鮮政府の行動だけを非難することはできない。米国が韓国と軍事力の強化を図るなら、米国と戦争状態にある朝鮮政府としては、安全保障上の対抗措置を取らざるを得ないだろう。
しかも、シンガポール合意の履行状況を振り返ると、シンガポール会談前に既に核実験場を廃棄して非核化の意思を見せていた朝鮮政府がミサイル施設の一部解体や米兵の遺骨返還などを行っているのに対して、米国政府は米韓合同軍事演習の縮小及び延期しか行っていないのだから、シンガポール合意を実現させるためには、米国政府の行動こそが求められるのではないか。
具体的には、制裁緩和や朝鮮戦争の終結、米韓合同軍事演習の中止など、朝鮮に対する敵視政策の撤回が考えられる。マスメディアは「安易な妥協」と評しているが、これらは「新しい米朝関係」や「朝鮮半島の平和体制」の構築のために、「朝鮮半島の完全な非核化」と合わせて検討されるべき問題だ。ほとんどのマスメディアは朝鮮に核兵器を放棄させるためには圧力が有効だと考えているようだが、これまでの歴史を振り返れば、圧力が朝鮮政府を核開発やミサイル開発へと駆り立ててきたという事実を思い起こすべきだ(ブッシュ政権による米朝枠組み合意破棄後の朝鮮政府の核開発再開や、2005年の6か国合意直後に課した朝鮮に対する経済制裁に続く朝鮮の最初の核実験など)。
昨年12月に中国やロシアは朝鮮に対する制裁緩和を求める決議案を安保理に提案したが、国連安保理の制裁決議には朝鮮の決議の遵守状況に応じて制裁を強化・修正・解除する用意があることを明記した条項がある。朝鮮に核兵器を放棄させるための制裁が、逆に非核化の妨げになっているというのが現在の状況ではないか。朝鮮半島の平和と非核化を実現するために、まずは朝鮮に対する制裁の緩和を真剣に検討すべきだ。
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