2020年02月03日22時41分掲載
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コラム
朝日新聞がなぜ危険な新聞か 村上良太
フランスでは右傾化は右翼政党のアクションよりも、社会党のような左派政党からいつも起きる、という言葉を何度か耳にしました。中野晃一教授(政治学:上智大学)の優れた著作「右傾化する日本政治」では自民党の右傾化が中心的に分析されていたと思います。これはこれで優れた分析だと思うのですが、右傾化の原因をなしているのは右翼政党やその支持者だけではありません。むしろ、かつての左派政党だった社会党の議員たちが自民党と連立政権を作ったり、その後に党を割って出て行ったりしたことが日本における左派政党の空洞化を招き、結果的に右傾化を許してきた、と言えると思います。
この経過はフランスにおける2017年の選挙でも同じです。オランド大統領の下、労働法の規制緩和をめぐって与党・社会党が分裂して、のちに新自由主義により近い社会党議員たちは台頭するエマニュエル・マクロンの新党「共和国前進」にあっさりと鞍替えしていきました。左派政党の中でさらに右派と左派に分かれ、その右派が分裂独立していく中で左派が先細っていく・・・こうした状況が2017年のフランスの政治状況でした。労働法を規制緩和する方向に社会党右派の議員たちが動いてマクロン陣営に移動したのです。
このことは政治を報じるメディアでも同様なことが言えるかと思います。もともと右派あるいは保守派のフジテレビや日本テレビなどよりも、テレビ朝日の方がよりよほど時代を右傾化させてきたと私は思っています。朝日新聞は一貫して安倍首相の飯友であり続けていますが、その間、アベノミクスを基本的には応援するような論調が目立っていました。社会欄ではアベノミクスで物価が上がって生活が厳しい、というような記事を出す一方で、経済欄では大企業群のインタビューを入れて経済は好調、将来は堅調みたい情報を入れて中和していたものです。一見、テレビ朝日は朝日新聞系で左派の印象がありますが、朝日新聞は経済に関する限り、論説委員や経済記者たちの視点は自由貿易協定も消費税増税も基本的に賛成で、自民党の方針とさして変わりません。それは番組にも当然影響を与えています。
テレビ朝日の「朝まで生テレビ」では左右様々な論客を登場させますが、決して本格的な議論には発展させず、次々と議論の途中で話題を変えていくのが特徴です。その結果、目立つ発言をする議員や論客の注目度は上がりますが、議論としてはまったく「議論」とは言えないものばかりです。議論の幻想を掻き立てるばかりで、これをもって「話し合い」だと勘違いさせてきたのがこの30年あまりの時代です。政治の荒廃のすべてを「朝まで生テレビ」の責任にはできませんが、しかし、この番組が振りまいてきた「議論」の幻想は罪深いものです。一見、左、あるいはニュートラルだという幻想の中で番組を見ているうちにいつの間にか右派論客のレトリックに惹かれて、心理的には無防備のうちに受け入れてしまう。フランスやアメリカでもこのようにたくさんの論客を一堂に会して議論させる番組もありますが、多くの場合1対1とかせいぜい、2体2くらいに絞り込んで論点も絞り、もっとはるかに徹底討論させています。司会の田原総一朗氏はどこかで1990年代に二大政党制を作るための小選挙区制を煽ってしまったことを反省していたと思いますが、二大政党制を作る目的は議論を活性化させることでした。ところが小選挙区制を導入した結果として生まれた今日の国会は暗澹たる有様です。活発な議論どころか、数で勝る傲慢な与党が野党の質問に誠実に答えない、という状況を作り出してしまいました。与党は選挙戦でもいかに争点を隠すかに苦心しています。
実はメディアで登場する様々な論客たちにも同じ傾向があります。一見、鋭い中立的なジャーナリストのイメージを醸しながら、少しずつ時代を右傾化させていく、こうした著名ジャーナリストは何人もいます。フランスではこうしたジャーナリストの実態を「新たな権力の番犬たち」(Les Nouveaux Chiens de garde, 2012)というドキュメンタリー映画で描いています。これはフランスの作家、ポール・ニザンが権力に迎合する知識人を描いたエッセイ「権力の番犬たち」(Les Chiens de garde, 1932)にあやかったタイトルです。もともとジャーナリストでルモンドディプロマティークの編集者だったセルジュ・アリミが書き下ろした本を映画にしたもの。誰がどの資本系列に入っているか、どのくらい稼いでいるかを暴いています。そろそろ、こうした鵺的なジャーナリストやメディアの正体を直視してよい頃です。
※「新たな権力の番犬たち」(Les Nouveaux Chiens de garde)のトレイラー
https://www.youtube.com/watch?v=hL52vf1ynFg
一見、知識人的で左派的なムードを漂わせながら、肝心なところで必ずはずさず右に社会を誘導するフランスのTV・新聞の番犬コメンテーターたちが次々と登場します。日本でも同様です。
村上良太
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