2020年02月15日03時21分掲載  無料記事
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政治

マイケル・ムーア監督がバーニー・サンダース候補を応援する理由

  マイケル・ムーア監督と言えば「ロジャー&ミー」でGM工場の海外移転と衰退する工場街を克明に描き、「ボウリング・フォー・コロンバイン」では銃保有の問題を描き、「華氏911」でジョージ・W・ブッシュ大統領時代の問題を描き、「シッコ」ではアメリカに国民医療保険制度がない問題を描き、とデビューから一貫してアメリカの病根を独自の語り口でユーモラスに描いてきたドキュメンタリー映画監督です。このムーア監督は民主党支持で、政治に関して遠慮せず語ってきたことでも知られていますが、今回の予備選ではバーニー・サンダース支持を昨年秋から打ち出しています。 
 
  アメリカの報道番組で同じく民主党左派のエリザベス・ウォレン候補は支持しないのか、と聞かれた時、ムーア監督はウォレン候補について非常に敬意をこめて語りながらも、ウォレン候補ではトランプ大統領には勝てない、勝てるのはサンダース候補しかいないと言っています。映画監督のティム・ロビンス氏も同じことを語っていましたが、トランプ大統領のような候補に対してバイデン候補のような穏健派の民主党候補では勝てない、という見方です。ウォレン候補も実力のある政治家ではあってもトランプ大統領のアクの強さと渡り合うには弱いと見ているのです。 
 
  実際に、穏健派候補では、オバマ大統領の2008年の選挙戦のような風を起こすことは難しいでしょう。オバマ大統領はメディケアにしても、人種の平等にしても強い理想を打ち出して風を起こして当選しました。「Yes ,we can」と言ってアメリカは変えることができると有権者に信じさせることができました。一方、2016年の民主党候補となったヒラリー・クリントン候補にはワクワクさせるものがなかったのです。2016年に風が吹いていたのはむしろ常識破りの公約を掲げたサンダース候補でした。このあたりは西部劇で決闘の好きな、アメリカ人の国民性も影響しているのではないかと言う風にも見えました。逃げ腰のガンマンではなく、堂々と敵と渡り合える人物に自分を投影できるのではないでしょうか。 
 
  実際、2016年の選挙戦でサンダース候補が民主党候補であればトランプ大統領に勝てたと当時よく耳にしたものです。2016年を振り返れば8年間のオバマ大統領の政策で当初公約にしてきたことの多くが骨抜きにされ、投票した人々の中にも不満がたまっていたのは間違いありません。リーマンショックをもたらした元凶の金融界の改革もそうですし、メディケアもそうでした。アメリカには、いまだに病院から請求された医療費が払えず、破産してしまう家族が多いと言います。学費に至ってはまだほとんど手つかずです。それに対して、ヒラリー・クリントン候補はあまりにもオバマ大統領の側近であり過ぎました。オバマ大統領が2008年に掲げながらも妥協を余儀なくされ、実現できなかったことを実現できそうな人物を中道から左派のアメリカ人は求めていたのではないでしょうか。これを考えると、オバマ大統領の副大統領だったバイデン候補が選挙資金の確保では突出していたとしても、人気が低迷しているのは当然のことです。あのオバマ大統領でも実現できなかったことを達成できそうなのはオバマ大統領以上にエッジのきいた候補でしかありえません。 
 
  ムーア監督はサンダース候補が唱えている政策はメディケアにしても、学費の無償化や学生ローンの返還不要(College for All and Cancel All Student Debt)にしても、最低賃金の引上げにしても、住宅福祉政策についても、アメリカ人の多くが同感できる内容になっていると太鼓判を押します。むしろ逆に、共和党と五十歩百歩の内容だと民主党を1つにまとめていけないと言うのです。だからこそ臆することなく、サンダース候補を立てて堂々と理想を提示していこうと言うのです。サンダース候補は79歳と高齢ですが、ムーア監督はその後ろに連なる、民主党の若いアレクサンドリア・オカシオ=コルテス議員のような、20代の左派議員に民主党再生の期待を託しているようです。 
 
 
※As Bernie Sanders scores AOC and Michael Moore endorsements, is a clash with Warren inevitable?(NBC) 
https://www.nbcnews.com/think/opinion/bernie-sanders-scores-aoc-michael-moore-endorsements-clash-warren-inevitable-ncna1068806 
 
※アメリカの新しい左翼誌Jacobinの論客がエリザベス・ウォレン候補に敬意を示しながらも撤退してサンダース候補支援に回って欲しいと呼びかけている 「I Like Elizabeth Warren 〜Here’s Why I Think She Should Drop Out」 
https://jacobinmag.com/2020/02/elizabeth-warren-drop-out 
 
※バーニー・サンダース候補陣営のウェブサイト 
https://berniesanders.com/ 
 
※「The Eye-Popping Cost of Medicare for All 
According to new figures: more than the federal government will spend over the coming decade on Social Security, Medicare, and Medicaid combined.」(The Atlantic) 
https://www.theatlantic.com/politics/archive/2019/10/high-cost-warren-and-sanderss-single-payer-plan/600166/ 
 アトランティック誌はサンダース候補やウォレン候補が打ち出しているメディケアの「シングルペイヤーシステム」では国家予算が膨大にかかると指摘、中道左派に位置づけられるというシンクタンクThe Urban Instituteの試算を引いて10年で34兆ドル(10年で約3400兆円=1年間で340兆円)上乗せする必要があるという。この試算自体が正確かどうか不明だが、とはいえ、「シングルペイヤーシステム」が何であれ、日本型の国民健康保険であれば設立することは夢ではないだろう。選挙戦が佳境になれば、サンダース候補の目指す社会の実現には予算をどう具体化できるか、どの程度、誰から増税するかが論戦のテーマになってくるだろう。トランプ大統領を支援する勢力と、本格的な対立となることが予測される。 


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