2020年02月23日15時45分掲載
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コラム
米民主党予備選の政策論争から見えてくるもの
一昨年にフランスの社会と政治に関するルポを出したのですが、その時、2017年に行われたフランスの大統領選の様々な候補者たちが出版した本を読み比べる機会がありました。大統領選のない日本と比べると、フランスでもアメリカでも候補者たちの政策が述べられていて、1つ1つ読んでいくと意外といろんなことがわかってくるものです。アメリカの場合はフランスよりも政党の数が集約されているので、候補者は絞られてきますが、予備選まで含めるとそれぞれの候補者のホームページに目をやるだけでも今のアメリカの課題が何かについて、いろいろと参考になるものです。
今、民主党予備選でトップを走っているバーニー・サンダース候補の政策項目をホームページに見ると、国民健康保険やグリーンニューディールなどと並んで、みんなのための大学、という項目があります。ここで次のように現在の問題点を述べています。
「Just 30 years ago, tuition and fees at a public, four-year university totaled $3,360 per year in today’s dollars. That same degree today costs more than $10,000 per year in tuition and fees and more than $21,000 per year including room and board.
(ちょうど30年前は4年制の公立大学の学費は今のドルに換算すると、1年間で3360ドル=約37万円。今は同じ学位を取るのに、年間1万ドル以上=111万円以上かかり、さらに宿代や食費を加えると、年間21000ドル=約233万円以上かかります)
Attending some of the best public colleges and universities was essentially free for students 50 years ago. Now, students are forced to pay upwards of $21,000 each year to attend those same schools.
(50年前は最良の公立大学のいくつかは基本的に学費が無料でした。今では高ければ233万円もの負担が要求されるのです。)」
ハーバード大学とか、イェール大学などは私立大学なので同じレベルで語れないにしても、州立大学ですら、かつては無料だったにも関わらず100万円以上年間かかるとサンダース候補は指摘しています。日本も高くなっていますが、アメリカはもっと高くなっていたのです。これを変革して、公立大学の学費を無料にせよ、と訴えています。何がそれを強いているかと言えば、その背後には多くの学生が学費のための借金(ローン)に縛られ、卒業しても借金の返済に追われてなかなか結婚もできない・・・という状況が広がっているからのようです。
「Cancel all student loan debt for the some 45 million Americans who owe about $1.6 trillion and place a cap on student loan interest rates going forward at 1.88 percent.
(今、4500万人のアメリカ人が1.6兆ドル=約177兆円に上る学生ローンを抱えていますが、それを全部帳消しにします。さらに、学生ローンの利率の上限を1.88%に設定します)」
この学費の問題もアメリカではオバマ時代から大きな問題となっていましたから、サンダース候補の政策は庶民に人気があります。サンダース候補は、アメリカの有権者にフランスなど欧州の国立大学の授業料は基本無料だと言うと、みんな非常に驚くのだと言います。アメリカ人は学費は教育を受けるものが負担するべきだというのが常識だという説がありましたが、実際にはそうではない国々があることに無知だった人が多いのです。このことは日本でもフランスなどの国々の国立大学の学費が基本的には無料なのだ、という情報はあまり伝えられてきませんでした。ですから、日本の国立大学の授業料も年間50数万円までになっています。やはり、日本でも国立大学や公立大学の教育費を無料にする、という政策が出てきてよいと思います。そうなることで、学生がアルバイトから解放され時間や資金の余裕が生まれれば、本がもっと読まれるでしょうし、その結果、出版産業にとっても景気の底上げにつながるでしょう。さらに誰でも大学で学べるようになれば、より機会の公平が保証されます。
社会人の始まりから膨大な借金を負わされ、利息の支払いに追われながら最低賃金がダントツに低い国で働き始めるのは不幸としか言えません。借金返済の義務を考えると、職業選択の道も狭められかねません。学費を上げているのはたとえばファーストフードやコンビニなどのサービス産業が安くて元気に働いてくれる労働者が欲しいからではないでしょうか。若者に本当はあまり勉強してもらいたくないと思っているからではないでしょうか。アメリカでは78歳のサンダース候補の後ろに、若い政治家が台頭し、こうした社会は変えるべきだという風を起こしています。日本でも変えることができるでしょう。
■フランスの現地ルポ 「立ち上がる夜 <フランス左翼>探検記」(社会評論社) 村上良太
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