2020年04月29日22時11分掲載
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コラム
【秩父の小さい畑と直売所から】白菜がナバナに
近くにある特別支援学校高等部の子どもたちと農作業を一緒にやり、地裁直売所を作って採れたものを並べるようになって3年目に入った。子供たちの成長、農業の教育力、地域とのふれあい等々、その折々の報告します。今回は時期遅れの、黄色く咲ききったナバナの話。(西沢江美子)
白菜がナバナに
直売所は菜の花でいっぱい。花屋か野菜屋かと首をかしげてしまう。7~8センチくらいに伸びた白菜やカブのとう立ちを摘んでまとめて一束百円。商品名は「ナバナ」。この冬の凍てつく畑で生き延びた野菜たち。
種をまいたのに成長が遅れてしまった白菜とカブ。普通はそのまま放られ、次の夏野菜の準備のために畑に敷き込まれてしまう。夏野菜のことを気にかけながら、外葉が凍ってくさっても、小さい結球の中で春を待っているつぼみをつけたとうが立ち上がるのをみたい。その植物のエネルギーをすべて味わってみたい。
この白菜やカブを播いた支援学校に子どもたちは、「高校生」という時間を野菜と同じように生きている、それぞれに激しい個性の持ち主だ。どの個性も、私たちが知らず知らずのうちに画一化され失ってきたものだ。画一化はますます進み、生きにくくなっている社会の中で、目の前で一生懸命咲いているナバナはこの子たちを同じ。
「ナバナってこんなに遅くないよね」
「これ食えるの」
「これ(野菜じゃなくて)花じゃない」
直売所の常連で、けっこうくらしを重ねてきた女たちでも花が咲きほこった、初めて見る「ナバナ」にああでもないこうでもないと手を出さない。そこに直売所のために売れ残りをいつも買ってくれる自称「野菜リサイクルおばさん」が通りかかり、「スーパーに売っている同じような姿のナバナじゃなくて、ここのものは香りだけでなく甘みがあっておいしいよ。島倉千代子じゃないけどナバナいろいろよ」。そういってナバナを手に取り、「ゆがかなくていいの。このまま味噌汁でも油いためでも、蒸してサラダでも」。
そういってナバナを両手いっぱい買い込んだ。野菜リサイクルおばさんのその日の夕食はナバナで花盛りかもしれない。(西沢江美子)
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