2020年05月20日15時13分掲載
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コラム
NHKに関するセントラルドグマにあえて異を唱える NHKはなぜ易々と官邸に屈したのか?
安倍首相べったりのNHKの報道のおかげで、NHKの劣化が指摘されてすでに久しいですが、そこでよく言われるのは劣化したのは政治部などの一部で、他は頑張っている、というような言及がよくなされます。第二次安倍政権の始まりが2013年初頭とすると、まるでそこからNHKが突然変異的に圧力に負けて報道が変わった、という意味が含まれています。しかもそれは一部のセクションのおかげ、と。これがNHKに関するセントラルドグマ=通念となっていますが、実際にはどうなのでしょうか。
実は安倍政権につけこまれる隙をNHKは構造的、組織的に有しており、安倍首相が目ざとくその間隙をついてきた、と言った方がよいのではないかと筆者は思っています。それが顕著になったのがETV特集「ETV2001 問われる戦時性暴力」(2001年放送 ※)の放送の際に、安倍氏や中川昭一氏ら自民党議員が介入したと言われている問題です。これに関してはいろんな説が出ているようですが、いずれにしても安倍氏らが介入して、その結果、番組が大きく改変され、取材対象者たちが裁判に訴えるほどの放送をめぐる歴史的事件になった、ということです。この改変によって、結果的に自民党議員らの望むような方向で番組が変わったことは確かであり、この経験が安倍首相のメディア対策の原点となる成功体験であったと推察されます。つまり、すでに2000年頃にはそうした隙間が与党議員たちの目に留まっていた、ということなのです。
ではその間隙とは何だったのでしょうか。NHKがこうした介入に弱い理由は、NHKという大組織が極めて権力志向の縦型組織になっていることにあります。つまり、下の身分の存在は上の身分の存在に徹底して従うほかない、という構造があるのです。だからNHK経営委員長とかNHK会長などのピラミッドの頂点に、自民党びいきの人材が抜擢されて据えられると、全体がその指揮系統に沿って生まれ変わって行きます。上が変わるごとにたちまち、あちこちで金太郎飴みたいに局員がまったく同一の番組作りの理論やモットーを口に出すようになります。本来自由を尊重すべき言論機関としては極めてまずい構造です。「ETV2001 問われる戦時性暴力」の場合で言えば実際に現場で取材し番組作りの中心となった製作者たちはこのヒエラルキーの一番下に位置していたことを忘れてはなりません。現場を知り、取材対象者を理解し、現実に通底する人々が一番力が弱いのです。
今、NHKの中のヒエラルキーは頂点から恐らく外部プロダクションまで含めると7〜8段階の序列があると言えるでしょう。その1つ1つの階層の人々は上の顔色を仰ぎ見るのです。政治部だけがこの構造にあるわけでなく、その他のセクションもすべてが同じ金太郎飴的な構造にあります。だからこそ、隣でひどい報道が行われていてNHKが批判されていたとしても、他のセクションの人々が集会や討論会を開いて自らの放送局の反省会を行う、というきっかけは恐らく持ちえないのでしょう。トップは同じだからです。これは教室でいじめが行われている時に見て見ぬふりをする優等生でしかありません。NHK全体の多重に及ぶヒエラルキー構造の中ではNHK局員というだけで、その下に位置する外郭団体やさらにその下に位置するプロダクションなどの上層に位置するため、局員たちは基本的にこの序列によって利益を受けているのです。さらに、この序列があることで退職後の天下り先(複数の外郭団体など)も確保できるわけです。だから、NHK局員が自ら変化を求めて動くことはもはや期待できそうにありません。悲しいことに戦後、こうした戦時中の構造が軍国主義や誤ったNHKの報道を招いたことを番組で毎年夏が来るたびに検証してきたはずのNHKは、何度でも同じ過ちを繰り返すことが見えてきました。
ではNHKを改革するには何が必要でしょうか。まずは巨大になりすぎた組織を分けることです。教育放送、報道、娯楽などに制作体制を分けて会社を独立させ、それぞれトップを置き、政府から独立した機関にチェックさせることです。NHKエンタープライズやエデュケーショナルなどの外郭団体は廃止して、NHK廃止後の放送局に統合します。せいぜい序列を3層〜4層までにとどめてフラットにしないと、一瞬で世界が激変するグローバル世界の中で、臨機応変で独立心に富む報道や番組作りはできません。
もう1つの改革は従来のNHKの人材育成が総合的に失敗だったことを顧みて、今までと異なるエートスの人材募集と育成方法に切り替えることです。では今までは何が問題だったかと言えば、情報をまとめたり、話を組み立てたりすることは得意な人々が多かったものの、一番大切な報道や放送の原点を守る強さ=誠実さと精神力を持ちえなかったことにあります。どんなに素晴らしい取材能力や編集能力、構成力を持っていたとしても首相や上司のケツ嘗め番組を作ることに疑問を持てないような人間は不毛です。仕事の本質的な価値=報道をめぐる国民への責任感よりも、自分の出世や給料と老後の安定の方をはるかに優先させるような人間の巣窟になっています。そうでない人間ははじかれて消えていきます。情報は国民の生命や運命を左右する力を持つだけに、これは国の危機を象徴しています。NHKの変革は早ければ早いほど、市民の平和と安全に貢献できます。
※『ETV2001 問われる戦時性暴力』 NHK『自主的編集』のウソ! (芹沢昇雄氏のブログ)
https://blog.goo.ne.jp/buidoinhat/e/c45a5928672ab0bf6000190a0f176ad1
「つまり、放送前にNHKの女性が電話で『実名報道の了解・確認』を取りながら、その後の「カット」がどうして「自主的編集」な訳はあるまい。その原因は安倍氏の発言であり、安倍氏が直接「不満や改竄」を指示する訳はなく、『公正・中立』の発言は内容に不満の意志を示した発言だったのである。
右翼などに批判されながら、金子さんは自らの「命がけの証言」がカットされた事が、どんなにか悔しかったであろうか。金子さんはその無念を抱えながら昨年11月亡くなった。この「私信」はご遺族の了解を得て公開するものである。」
南田望洋
■もし政権が有罪ならNHK幹部らも共犯 東独の1989年に似た空気が満ちている
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