2020年06月02日10時22分掲載
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教育
コロナ禍と大学(4)プライバシーの権利脅かす遠隔授業と安倍政権の「学習履歴データベース」構想 石川多加子
遠隔授業の一般化によって明らかになった問題で、強い懸念を抱くのは、教育産業や通信事業におびただしい情報が累積している状況である。流出は云うに及ばないが、何より危惧するのは、権力による覗き見とデータ収集を容易にし、事実上の「検閲」が“一般化”してしまうことである。さらに言えば、漏洩させず他の目的に用いたりせず、ただ「見ている」・「集めている」だけなら、何ら差し支え無いのであろうか。否、筆者は拒否する。情報の所有者に「気持ち悪い、不快だ」と思わせるだけで、プライバシー権を害していると言える。プライバシーへの権利とは元来、「一人で居させてもらいたい権利」なのである。
▽学習管理システムの情報流出
2020年4月、安倍晋三首相が7都府県に緊急事態を宣言して(改正新型インフルエンザ等対策特別措置法32条・附則1条の2)多くの学校が再び休校を決めた只中、Classi(クラッシー)株式会社が、外部の攻撃者による不正アクセスによって高校生や教員、保護者等122万人のID及び暗号化されたパスワードの文字列等が閲覧された可能性があると公表した。
同社はベネッセホールディングスとソフトバンクが共同出資して2014年4月に設立されており、「コミュニケーション、探究学習、学習動画、日々の学習記録など、学校生活のさまざまなシーンで活用いただけるオールインワンのプラットフォーム」であるClassiを利用する全国の高校は2校に1校(2500校)以上、高校生の3人に1人(116万人)にも上るそうである(2019年5月時点Classiホームページhttps://classi.jp/about/)。ベネッセは、2月末より小・中学校に「学習探検ナビ」(インターネットを経由してプリントをダウンロードする)によるプリント教材を、3月初めからは、Classiを導入していない高校に、機能限定版を無償で提供していた(4月末迄)。
ベネッセは2014年に、国内で最悪の情報漏洩事件を起こしたばかりである。グループ会社「シンフォーム」で働いていた派遣社員が不正に取得した約3,500万件分の顧客情報を名簿業者3社へ売却していたことが明らかになった。東京高等裁判所は2019年6月、被害者がベネッセとシンフォームに対し損害賠償を求めた訴訟で、1人当たり2000円の支払を命じる初の判決を下している。
遠隔授業で広く使われるようになった学習(修)管理システムはClassiだけには留まらない。先に触れたzoomの「クラスルーム」やTeamsを初め、Googleの「G suite」(ジースイート)・シスコシステムズの「Wwbex」・アリババの「DingTalk」(ディントーク)・テンセントの「QQ」といったようにチャット、ウェブ会議システムが教育機能も併せ持つようになったものも少なくない。
その上多くの大学が、固有の学修管理システムを有し、教員、職員、及び学生が日常的に教育、研究、業務に活用している。WebClassはその一例である。九州大学副学長の安浦寛人氏によれば、同大が2016年に設立し、1万9千人の学生と8千人の教員に「学習管理・教材配信システム」を提供する「ラーニングアナリティクス(LA)」は、より先進的!な用途を備えて「教育データの活用に取り組んで」いるようである。すなわち、「学生に予習・復讐の記録や複数の教員で同じ科目を教える場合のクラス比較などができるツール」を教員が用いると「例えば授業中に学生が教科書のどのページを見ているかが即時に分かる機能を使うと、授業の進め方やスピードをその場で調整できる」とのことである(2020年5月25日日本経済新聞)。
付言するが、学修管理システムを利用する為に大学のポータルサイトから入ると、連絡事項、教職員の評価・給与、学生の生活状況等々繊細なリンクと共在しているのが分かる。4月末には、東京学芸大学次世代教育研究推進機構(NGE)が日本教育大学協会会員大学に宛て、同大が有する「21CoDOMoS」(遠隔授業での授業動画配信サービス)を「授業等でご自由にお使いください」と通知して来て、少々当惑した。
なお、zoomを代表とするWeb会議サービスの一部には脆弱性が発見されている。4月初めに文科省が大学に配信してきた「【注意喚起】脆弱性が確認されたWeb会議サービスの利用について」は、「バックグラウンドでマイクとカメラに不正アクセスしてミーティングの内容を記録」・「インストーラーを悪用して管理者権限を取得」・「不正なリンクをクリックした利用者におけるWindows認証情報が盗まれる」恐れを指摘している(文部科学省大臣官房政策課サイバーセキュリティ・情報化推進室「 【注意喚起】脆弱性が確認されたWeb会議サービスの利用について」)。
▽「教育版追跡アプリ」の戦慄
ところで安倍内閣は、開催中の第201回国会(常会)に、AI(人工知能)及びビッグデータを活用し「社会のあり方を根本から変えるような都市設計」によって「まるごと未来都市」を実現するとの謳い文句で(内閣府地方創生推進事務局「『スーパーシティ構想』について」2020年5月、首相官邸ホームページhttps://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/supercity/supercity.pdf)、「スーパーシティ法案」(「国家戦略特区特別区域法の一部を改正する法律」閣法第5号)を提出し、5月末には参議院本会議で可決、成立している。
同法案は、第4次安倍改造内閣下(2018年10月〜2019年9月)で当時の片山さつき地方創生担当大臣が骨子を作ったそうですが(2020年5月13日2:00日本経済新聞デジタル https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58993860S0A510C2MM8000/)、移動、物流、支払、行政、医療・介護、教育、エネルギー・水、環境・ゴミ、防犯、防災・安全といった我々の生活・生涯に亘る膨大な情報を収集対象としているものである。
大阪府と大阪市は既に、2025年に開催を予定する国際博覧会の会場となる夢洲・大阪駅北側の再開発地域を国家戦略特区として、「ドローンを使った配送、顔認証技術を用いたチケットレスサービス」等を提案している(日本経済新聞デジタル2019年10月31日20:36https://r.nikkei.com/article/DGXMZO51661380R31C19A0AC8000?s=3)。ついでながらカナダでは2020年5月初旬、トロント沿岸部におけるスマート・シティ事業の撤退を決めたことが報じられたところである(BBC NEWS JAPAN2020年05月8日 https://www.bbc.com/japanese/52585759)。
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加えて、日本政府は2020年4月初め、「新型コロナウイルス感染症対策テックチーム」(チーム長 西村稔コロナウイルス感染症対策担当大臣)を設置し、「感染拡大防止に資する統計データ提供の要請に応じた企業と提供されたデータの厚生労働省等での活用に向けた検討」、「シンガポールのTrace Togetherアプリケーション日本版の実装検討」等を開始しました(新型コロナウイルス感染症の拡大防止対策に資するIT活用について https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/techteam_20200406_01.pdf)。
約1週間後にはヤフー株式会社が、「新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報提供に関する協定」を厚生労働省と締結したことを、竹本直一IT相は、新型コロナウイルス感染者との濃厚接触者を追跡するスマートフォン用アプリの実証実験を同月内に始める旨をそれぞれ発表した。前者は検索ワードで感染者を見出そうとするもの、後者は、位置情報を用いる「シンガポール方式」の日本版である。
以後計3回会合が開かれており、NTTドコモを初めとする移動通信事業者の位置情報を活用した「人の流れの見える化」、国内約 8,300 万人の LINE 利用者に向けた発熱状況や感染予防策等についてのアンケート 、新型コロナウイルス感染症対策で寄せられる要望等の一覧化及びAI分析等のコア技術を活用した課題解決のプロジェクト組成(4月21日https://cio.go.jp/node/2602) 、スマートフォンを活用した「接触確認アプリ」、「密発見A Iソリューション」、「VPA-UI(対面AI)作成ツール」 (5月8日https://cio.go.jp/node/2604)等について検討されている。
各事業計画には、日本マイクロソフト・楽天・Apple・Google・Ridge-i (リッジアイ)・フェアリーデバイセズ等の企業名が記されているのが分かる。「接触確認アプリ」は、今や導入済みが40箇国、検討中が日本も含めた23箇国に上っているが、普及率は一番高いアイスランドでも4割である。識者は「有効に機能するには6割の普及率が必要」と分析しており、実効性に疑問を呈している(2020年5月24日日本経済新聞)。有識者検討委員会委員には、2人の憲法学者、東京大学教授の宍戸常寿氏(座長)・慶應義塾大学教授の山本龍彦氏の名も見られる。
前述した学習(修)管理システムは、「教育版追跡アプリ」と称するのが相応しい。安浦氏は、「小中学校から大学、社会人教育までの教育データを本人の同意の下に蓄積した『学習履歴データベース』の実現が国家的課題」と位置づけ、高校・大学の進学や企業の採用選考に役立てることを提案している(前掲、2020年5月25日日経新聞)。まことに戦慄すべき計画であると言わねばならない。
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