2020年06月21日11時20分掲載
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コラム
安倍政権は「メディア政権」だった その2 端緒は2014年1月の籾井氏のNHK会長就任発言 そして電波停止の脅し
安倍政権はメディア政権だったと前回書いた。多くの人はこう書いても納得されるのではなかろうか。では、安倍政権がメディア政権化したのはいつだったかと言えば、筆者は2014年だったと考える。この年は日本が戦後初めてファシズム化した年でもあったというのが筆者の考えだ。
2014年1月にNHK会長に就任した籾井勝人氏は「政府が右と言うものを左と言うわけにはいかない」と語った。憲法で保障された言論の自由、あるいは表現の自由を否定した発言だが、それを公共放送のトップが発言したのである。今はずいぶん格が下がってしまったNHKだが、この時はまだ内容が信頼される放送局だったのだ。だからこそ、その発言は衝撃を起こしたのだが、おそらく最もダメージを受けたのはNHK本体だっただろう。以後、籾井会長の発言通りにNHKは安倍政権の広報機関的な存在になってしまう。
2014年に安倍政権は小渕経産相の辞任など複数のスキャンダルに見舞われて夏から秋にかけて危機が訪れるのだが、安倍首相は11月に一気に総選挙にうって出た。<消費税率10%への引き上げを1年半後に先送りすることを決め、国民に真意を問う>というのが解散の理由であり、多くの人にとっては安倍首相の権力基盤の再構築としか理解しがたい解散だった。しかも1年半後に消費税が10%に引き上げられたわけでもなかったのである。
2014年11月18日、安倍首相はNHKのニュースウォッチ9に中継で生出演して解散の理由を話した。このNHKのインタビューはインタビューでも何でもなく、安倍首相が言いたいことを一方的にべらべら話して終わる、というその後に継承される記者会見の見本になった歴史的な放送である。そして、この選挙で投票率は戦後最低水準になり、安倍首相は長期政権を確保することになった。2014年1月にNHK会長に籾井氏が就任したことが11月のニュースウォッチ9につながったのだ。
安倍首相がメディア制圧を狙うようになった原点はNHK教育テレビ・ETV特集「ETV2001 問われる戦時性暴力」(2001年1月放送)が安倍氏らの介入で内容が大きく改変されたことだろう。NHKの組織的な弱さを安倍氏はこの時つかみ、成功体験となったのではなかろうか。個人を尊重せず、万事が組織に忠実な縦社会のNHKではトップに誰を据えるかで色は一変する。安倍氏は2001年にすでにそのことを鋭い政治的嗅覚で見抜いていた。
右翼の人々はNHKが2009年に放送した「Japanデビュー」と題する4回シリーズのNHKスペシャルが内容的に偏向していると大々的に批判をしていた(※)が、安倍政権のNHKの掌握で留飲を下げたことだろう。時系列的にはこのNHKスペシャルの後になるが、2009年は民主党が政権を取った年でもあり、自民党を支える右翼勢力にとっては危機感がピークに達した時でもあった。今、左翼だけでなく、無党派の人々からもNHKは批判されているが、2009年は右翼から批判をされていた。NHKを考える上で大切なのは右や左ではなく、ジャーナリズムとは何か、ということに尽きる。その意味でも籾井NHK会長(当時)の「政府が右と言うものを左と言うわけにはいかない」という発言は重大な問題を含む。というのも政府は選挙でその時々で選ばれた一時の政治勢力に過ぎないからだ。その政府を基準に番組の編集方針を決めていたのでは、選挙のたびごとにNHKはコロコロ放送内容が変わる信頼されない放送局になってしまうだろう。だから政府から独立していることが大切なのだ。
その後、2016年2月の高市総務大臣の電波停止発言(※)のように安倍政権は民放にも圧力をかけ統制を進めていく。民放のニュース番組でも選挙報道は委縮した(※)。赤旗によると、2019年の参院選の選挙報道時間は前回2016年と比べて1割も減少したとされる。報道しなければ選挙に関心を持つ人々はますます少なくなっていく。それは当然ながら与党に有利に働く。その意味で安倍政権を作り、支えたのはメディアだったと言って過言ではない。メディアは民主主義の大きな脅威となりえる、ということがこの7年間の最大の教訓である。
2014年はNHK会長の人事だけでなく、内閣人事局も設置され、内閣が官僚機構とメディアを掌握した年となった。2014年1月の都知事選で野党陣営は分裂して敗北した。今後、安倍政権を研究する人々は2014年を何度も研究することになるだろう。安倍政権の支持率の低下でこの秋に衆院が解散されるとの噂(※)も出ているが、状況は2014年に実によく似ている。だからこそ、メディアがまた動員される可能性もあるのだ。
※シリーズ JAPANデビュー第1回 アジアの"一等国"(NHK)
https://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20090405
※高市氏の電波停止言及「報道の自由懸念」 米人権報告書(日経 2017年)
https://www.nikkei.com/article/DGXLASGM04H0Q_U7A300C1NNE000/
※減り続けるテレビ選挙報道(赤旗、2019年)
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik19/2019-08-01/2019080103_01_1.html
※衆院解散、今秋にも=消費減税強く否定―自民・甘利氏(時事)
https://www.msn.com/ja-jp/news/politics/%e8%a1%86%e9%99%a2%e8%a7%a3%e6%95%a3%e3%80%81%e4%bb%8a%e7%a7%8b%e3%81%ab%e3%82%82%ef%bc%9d%e6%b6%88%e8%b2%bb%e6%b8%9b%e7%a8%8e%e5%bc%b7%e3%81%8f%e5%90%a6%e5%ae%9a%e2%80%95%e8%87%aa%e6%b0%91%e3%83%bb%e7%94%98%e5%88%a9%e6%b0%8f/ar-BB15LCG9?ocid=st2
南田望洋
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