2020年07月30日17時43分掲載
無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=202007301743384
コラム
ペンネームを使って記事を書いていたレジスタンス紙「コンバ」のアルベール・カミュ
インターネット上のペンネームを特にハンドルネームと呼ぶそうですが、実名を避けて仮の名前を使って表現活動を行う意味ではペンネームと本質は同じでしょう。ハンドルネームの書き手の文章を大手新聞でそのハンドルネームのまま、掲載することの是非が議論されています。
私が1つ思い出すのは第二次大戦中の抗独レジスタンス紙Combat(コンバ)にアルベール・カミュが記事を書いていた時の事です。1944年6月のD-dayのあと、8月にパリは連合軍によって解放されます。この時まで当然ながらレジスタンスの新聞は非合法の地下新聞でした。新聞が合法か、非合法かという法律のことよりも、ゲシュタポに見つかったらどんな目にあわされるかわかりませんから、記事を書くことは命がけのことだったでしょう。では、カミュは当時、実名を使っていたのでしょうか?それともペンネームだったのでしょうか?以下のリンクのソースによると、カミュはペンネームを複数使い分けていたと記されています。
https://www.encyclopedia.com/arts/educational-magazines/camus-albert-1913-1960
”At Combat, Camus wrote clandestinely under the names Albert Mathe, Bauchart, and the joint pseudonym Saetone. ”
(コンバ紙で、カミュは非合法にアルベール・マテ、ボーシャールなどの仮の名前やサエトンというペンネームで記事を執筆した)
非合法で、かつ見つかったら拷問や収容所行きも覚悟しなければならなかった時代のフランスと、今の日本で新聞を一緒くたにして論じることはできないかもしれません。ただし、現在の日本においても、少なくとも実名で政治について書くことは、特に政府批判を行うことは仕事の上でリスクが大きいと思います。憲法で思想や表現の自由が認められているので、即逮捕ということがなかったとしても、その人の出す記事や企画は採用されないといった干され方をする可能性があります。あるいは実業人なら配置転換されるかもしれません。その場合も決して、本当の理由ではなく、やんわりと違った理由がつけられるはずです。こうした人は一定数存在するのではないでしょうか。日本は表現の自由があったとしても、それを行使出来て仕事に影響を受けないでいられる人はそう多くないはずです。
私個人はペンネームで意見を出すことは基本的には良いことだとは思ってはいませんが、しかしながら日本の現実を見ると、そうとばかり言ってはいられないと思えるのです。ちなみに、コンバ紙のその後ですが、カミユを始めサルトルやボーヴォワール、あるいはアンドレ・マルローらが非合法で記事を書いていたコンバ紙は第二次大戦末期に日刊紙として日の目を見ることになりました。
※フランスの本「コンバ時代のカミュ 1944-1947 」
https://www.amazon.co.jp/Camus-Combat-Editoriaux-articles-1944-1947/dp/2070453340
Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。