2020年08月12日21時56分掲載
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オリヴィエ・アサイヤス監督「夏時間の庭」(2008)
オリヴィエ・アサイヤス監督の映画「夏時間の庭」は老母が亡くなり、遺品である親族の巨匠画家の作品群や家に所蔵されていた世界的絵画や工芸品をどうするか、という男女3人の子供たちの物語である。オルセー美術館開館20周年記念に作られたというこの映画には本物の芸術作品が用いられていることで話題を読んだが、扱われている物語は芸術家ではない子孫たちがそれらの作品をどうするか、ということである。シャルル・ベルリングが演じる長男は家をそのまま残して一族で共有し、芸術作品もなるだけ置いておきたいという考えだった。しかし、外国で暮らしている長女や次男はそれぞれ遺産を金銭化して暮らしに活用したいと本音を語る。長男は悲しいが、二人の意見を聞き、家を売却し、さらに遺品の多くを相続税対策として国に寄贈することにする。
この映画は遺産相続のために集まった3人の兄弟姉妹の事情を描き分けている。芸術に丸ごと生きた母や巨匠画家たちの生活と、市井の人生を営む兄弟姉妹との間には大きな断絶がある。その葛藤は心ならずも遺品や家を処分しなくてはならなくなる長男の主人公シャルル・ベルリングに象徴される。大学で経済学を講じている彼は芸術家ではないが、母親たちの生きた芸術が香る豊かな暮らしを子供たちに残したいと思っていたのだ。だが、その彼もやがては母親の意志に従い、遺品の芸術作品が国の美術館に納められ、普通の市民に分かち合われることで多少なりとも救われる。主人公の悲しみと行動が淡々とながら無理なく描かれており、しみじみとした味わいがある佳作である。日本人の中には、この映画を見ると小津安二郎監督の「東京物語」を思い出す人もいるだろう。親たちの暮らしと子供たちの暮らしには断絶があり、だからと言って現代を懸命に生きている子供たちの家族を否定することもできないのだ。
※Trailer
https://www.youtube.com/watch?v=Pcwy0K5Si84
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