2020年08月25日12時28分掲載
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文化
[核を詠う](313)『現代万葉集2016〜2019年版』から原子力詠を読む(4)「核戦争予告するような国に居て辺野古基地造るアメリカの為」 山崎芳彦
筆者の事情で前回から間を空けてしまったことをお詫びしながら、「現代万葉集2019年版』から原子力詠を読むが、同2016年版から読み続けて来て今回で終る。これで、本連載では『現代万葉集』の2012年版から断続的にだが、毎巻を読ませていただいたことになる。2011年の福島原発事故以後に『現代万葉集』が収載した全国の多くの歌人が詠った原子力詠を読んできたことになり、力不足の筆者の読みによる作品抄出ではあるが、それなりに意味のあることであったと思っている。作者の方々がさまざまに「核を詠った」作品のおかげである。なお、『現代万葉集2019年版』への参加者は1831名で、5493首が収録されている。その貴重な作品の中から、筆者の拙い読みによって抄出した「原子力詠」であるのだが、今後とも多くの歌人が「核」の時代に生きている現実を詠い、世に遺されるとともに、原子力マフィアのさまざまな策動に抗して、原子力社会からの脱却へ、歌の力をさらに発揮されることを願うこと、切である。
▼四季 夏(抄)
浜昼顔津波に耐えて残りしをそのしたたかさ移さんわれへ
明日がある まだ明日がある風そよと夕顔の笑み運び来るから
復興へ野馬追の野馬ひとしきり鞭打て鞭打て遠(とお)光るまで
(3首 福島・波汐國芳)
▼戦争(抄)
核兵器禁止条約賛同せず安倍さんなぜです教えて下さい
(兵庫・井貫百代)
祈らむとして来し原爆の絵図の前誰が生者か死者か判らず
「原爆の図」に真向ひて礼(ゐや)深くする人あればわれも順ふ
(2首 東京・久保田 登)
教室の鏡の悪(わる)さしたように「ピカッ」と光りし八月六日
(東京・佐藤あき子)
Tシャツの胸に巨大な茸雲リッチモンド市市民トレンド
爆心地地下街シャレオ・カフェ数多外国人の笑顔行き交う
寺町よ初雪染むる墓処(ぼしょ)ひとり軍都廣島祖父(おおおや)の郷(さと)
(3首 東京・鈴木淑枝)
広島に生き残りいし大樹あり被爆の跡をとどめて剛季
(高知・西岡瑠璃子)
被爆せる母にすがりて幼子の胸まさぐりし姿わすれじ
幼子を抱きて「水を下さい」と被爆の母はただうつろなり
被爆せる母子に水をやるために再び戻る白昼のゆめ
(3首 長崎・浜田 覺)
耐えかねる暑熱の中に原爆の焦点温度は十万度と知る
(東京・森 玲子)
原爆で死せる弟負う少年不動の姿勢で火葬の順待つ
(神奈川・若松亮任)
▼社会(抄)
荒れた田仁汚染土入れし黒きふくろ小高区の地に人ら戻らず
台湾は脱原発を決めしかど新設目立つアジアの国ぐに
(2首 広島・天瀬裕康)
原子力緊急事態宣言下続くに令和と馬鹿騒ぎする
(埼玉・石川勝利)
広島の「平和宣言」流るれば庭の蝉しぐれ和して高まる
(富山・上田洋一)
七年が過ぎて次第に忘れられうしろの正面は見えぬ放射能
(北海道・内田 弘)
東北の痛み静かに滲ませて鮮やか過ぎるとりどりの花
(神奈川・小笠原信之)
年経(ふ)るも浄化されえぬ悲しみが今年も甦る 暑き八月
原発の白亜の宮殿建つ海辺 今日も哭きます陸(くが)打つ潮風
(2首 愛知・岡本育代)
アンネのばら黄のいちりんの細き茎わすれ難かり 長崎の空
ただいちど友が見せたる手帳なり「被爆二世」を深く秘め持つ
一泊の社会見学ヒロシマを踏みて来し児が今朝を黙祷す
(3首 滋賀・川崎綾子)
電力会社の敷地の角(かど)にプラカード「原発反対」掲げ持つ人
(大分・佐藤博子)
太陽のかけら盗(と)りしが核ならむ悔ゆれば何処に返すのですか
(東京・鈴木良明)
窓のなき原子炉建屋の並ぶ背後海鉛色に冬の陽に照る
原子炉の深き沈黙記したる今日の日記に沁みる夜の冷え
(2首 岐阜・近松壮一)
広島を訪問すれど核兵器禁止条約に総理の触れず
(千葉・野田忠昭)
核戦争予告するような国に居て辺野古基地造るアメリカの為
(沖縄・平山良明)
原始の世ワンサイクルで原子の現代(いま)駕籠にのりかへ草鞋履かねば
(三重・松本志げ子)
核災と虚言妄言に美しき日本の国を再生できるか
(福島・宮崎英幸)
水爆は玩具にあらず孫も娘も太平洋上ハワイに暮らす
(山形・渡邊範子)
▼都市・風土(抄)
原発の電気を送りし都市なれどレンズ雲ひとつ浮かべてけふは
(東京・遠藤たか子)
▼災害・環境・科学(抄)
地震(なゐ)の神原発ゆするな傾くぞベクレルの波に怯ゆるわれら
(北海道・吾子かずはる)
除染作業員(さぎょういん)なれば飯舘村(むら)から放射能一掃せねばと励む弟
〈肺癌〉になっとくいかず嘘なのか本当なのかおとうとの死は
「原発の事故などなかった」弟は夢に笑って震災を言う
(3首 宮城・伊藤誠二)
歌を詠むためのみ被災地訪ふ勿れみづからに言ひつつ現場に向かふ
脇道は全て閉ざされ家々も鎖され帰還困難区域
みづからを避難民と言ひ詠ふ人原発事故は終つてゐない
(3首 福島・伊藤雅水)
原発の相次ぐ事故に慣れてきて驚きもせぬ心を怖る
七年を隣人たりし人の老ゆ帰還は孤独を深めたるらし
除染時は賑わいたりしコンビニの弁当売場に人影のなし
(3首 福島・大堀槙子)
人類の現われてよりの四、五万年汚せる星を戻す術(すべ)なし
(北海道・押山千恵子)
被災星とぽつつり呼べば星々はハルリンドウの色を湛へる
黒光る放射能袋 平成くん〈原子力戦争〉に負けても頬つかぶり
町境なんて見えない春の空 〈当事者性〉といふ分断はなく
(2首 宮城・北辺史郎)
七年間仕舞ひ置きたる線量計携へ目指す被曝の地帯
山積みのフレコンバッグ黒々とかたちに見する放射線なり
故郷の海辺に並ぶ原発の万が一思(も)ひ立てる被曝地
(3首 埼玉・中村美代子)
六年を経ても仮設に哀れなり何時死するかと吾に持家(いえ)の有り
なげき持つ原発の町の君を知るまづしき吾の歌を縁に
(2首 岡山・山本幸子)
あの頃はベクレル使わずキューリーだった浮遊生物(プランクトンの活性測定)
(東京・渡邊泰徳)
次回も原子力詠を読む。 (つづく)
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