2020年08月28日15時21分掲載  無料記事
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再々掲載「アナキズム書籍10冊」 森 元斎(もり・もとなお(たまに、「げんさい」)

  今日、安倍首相が辞任の意向を明らかにしました。第二次安倍政権は様々な問題を起こしましたが、これから先を考える上で、政局だけでなく、もっと大きな社会の可能性を知ることが大切ではないかと思います。そこで以下のテキストを再掲載いたします。 
 世界ではアナキズムの思想・哲学は重要な研究領域をなしているばかりでなく、社会・経済の中で実践されてもいます。しかし、歴史的な事情もあってか、日本では知っている人がまだまだ少ない分野です。そこでアナキズムに詳しい長崎大学の研究者、森元斎氏にアナキズムを理解するための本を10冊推薦していただきました(編集部) 
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   森元斎氏による「アナキズム書籍10冊」 
 
アナキズムに入門するための10冊を選んでみました。 
もちろん、これだけではないのですが、 
これを読んだら、もう、あなたもアナキスト! 
 
1. 森元斎『アナキズム入門』ちくま新書 
 
  拙著で申し訳ないけれども、現在手に入れやすいものは、これかな、と思うので、ひとまず。プルードン、バクーニン、クロポトキン、ルクリュ、マフノといった19世紀から20世紀初頭にかけて活躍した人たちのアナキスト列伝! ここからアナキズムのなんたるかを掴んで欲しい! 
 
2.デヴィッド・グレーバー 『アナーキスト人類学のための断章』以文社 
 
  『負債論』で世界中で一世を風靡した人類学者のアナキズム入門書。グレーバーもそうであるように多くのアナキストがそうであるが、大文字のアナキズム(Anarchism)ではなく、小文字のアナキズム(anarchism)が存在する。これがアナキズムだ、なんて決定版はこの世にあり得ない。様々な断片があり、様々な素材を、アナキストたちは、自らの作風で作り上げていくのみである。その意味で、生のあり方と、民主主義のあり方と、アナキズムは等しい。 
 
3. 金子文子『何が私をこうさせたか』岩波文庫 
 
  今を遡ること100年前、日本でアナキズムは元気だった。なぜかって? 生命をかけて彼らはアナキズムを生きたからだ。それが人々の間で共鳴し、数多くの火花をちらした。その中でも金子文子は、「私自身を生きる」ことで、それが自ずからアナーキーとなっていった。でっち上げの罪でしょっぴかれ、死刑判決を受けた彼女は最後まで、彼女自身を生きた、生の思想家である。 
 
4. エリゼ・ルクリュ、石川三四郎『アナキスト地人論』書肆心水 
 
  私が一番お好みのアナキスト、エリゼ・ルクリュの著作。これまたお好みの石川三四郎が翻訳してくれている。本書は元々L’Homme et la Terre、つまり人と地についての地理学書であり、六冊四巻構成で刊行されていたものだ。ものすごく長いのであるが、そのエッセンスをギュッと凝縮した一番最後の文章が翻訳されている。地理学の書籍というよりもむしろ、哲学書であり、アナキズムの理論書である。 
 
5. ピョートル・アルシノフ『マフノ運動史』社会評論社 
 
  ウクライナで颯爽と登場したネストル・マフノの評伝である。彼の貧しい生活は、金子同様、彼をアナキストにした。武装闘争を繰り広げ、赤軍とも白軍とも傀儡政権とも闘い、彼は自由を得ていった。コミューンを基盤に生活を向上させていった。私たちはマフノに学ばなければならないと思う。 
 
6.マルコス副司令官『老アントニオのお話』現代企画室 
 
  同時代におけるアナキズム的な実践を行っているサパティスタ民族解放戦線。その語りには、土地を愛し、仲間を愛する心が説かれている。メキシコでNAFTAが締結されるや否や、チアパスに住んでいる人々はマルコス副司令官とともに立ち上がり、自らの生業を守るべく、メキシコ政府とは縁を切った。彼らは農作業を愛し、世界経済の混乱から身を守ったのである。サパティスタ・コーヒーは、どこよりも美味しいコーヒーである。日本でも買えるので、買って飲むべし! 
 
7. ミヒャエル・クナップ他『女たちの中東 ロジャヴァの革命』青土社 
 
  これまた同時代において、アナキズム的な統治を実践しているロジャヴァ(シリアのあたりね)革命について書かれた一書。どこよりも相互扶助の実践に長けており、民主主義のあり方にどこよりもこだわりを持った場所である(その意味で、日本に民主主義なんてあったためしはないだろう)。女性に対する差別が蔓延している中東地域でありながらも、ロジャヴァは、必ず、女性を中心に立てて、革命を実行していく。家父長制と資本主義が敵であり、敵を打ち砕くべく、これまでにない闘争が今、私たちがこうしている間にも、ロジャヴァで実現しているのである。 
 
8. ジェームズ・C・スコット『ゾミア』みすず書房 
 
  自分の住う土地と共に暮らしながら、闘争を試みる人々は、今に始まったわけではない。中国の南部、ベトナムやインドの北部かけて広がる広大な山岳地帯、それがゾミアである。そこに住う人々は、国家を持たない。もちろん、地政学上はどこかの国家の領域に入るが、かれらは、国家を拒否して生きている。国家に蹂躙され、山に逃げ多せた人々の生活のあり方は、もちろん、平地とは異なる。ゲリラ的な農業。国家を拒否していこうとする精神。消えつつあるが、しかしその一方で、そうした精神は、私たちも学ぶべきものしかない。 
 
9.ピエール・クラストル『国家に抗する社会』水声社 
 
  スコット同様、人類学の英知の中でも一際輝く書籍。スコットのアナキスト人類学とも呼べるその中身は、驚きの連続である。国家なるものが構成されないように、権威なるものが構成されないように、人々は、その権力を無にしていく作業に従事する。それが私たちの常態であり、日常であった。「野蛮人」に私たちは学ぶべきなのではないだろうか。 
 
10.シルビオ・ゲゼル『自由地と自由貨幣による自然的経済秩序』ぱる出版 
 
  「アナーキー」で「野蛮」な状態になってしまったら、「経済」はどうなるかって? その時には、緊縮を訴える必要も、反緊縮を訴える必要もない。私有地が今も昔も大きな問題になっているわけだから、答えは簡単だ。土地は自由にする(形式上は国有地)。それに加え、貨幣はどうなるかって? 腐らないから問題なのである。じゃぁ、腐る貨幣を考えたらどうか。そうすれば、腐る前に貨幣は使う。経済は回る。ケインズが崇拝したゲゼルの経済思想は、今最も読まれるべきものだと思う。 
 
 
プロフィール 
森 元斎(もり・もとなお(たまに、「げんさい」) 
1983年東京都生まれ。哲学・思想史。長崎大学多文化社会学部教員。著書に『具体性の哲学 ホワイトヘッドの知恵・生命・社会への思考』(以文社)、『アナキズム入門』(ちくま新書)など。 


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