2020年09月10日14時25分掲載
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等身大の人間を描くタルディ(TARDI)の漫画 〜フランスの探偵漫画などで活躍〜
フランスは日本のアニメーションにほれ込んだオタクがたくさんいる国として知られていますが、フランスで独自に発展した漫画BD(バンドデシネ)には逆に日本に紹介したい作家にあふれています。作画を担当したタルディ(※ TARDI)は筆者が好きな漫画作家ですが、TARDIの代表作は「ネストール・ビュルマ」(※ Nestor Burma)という名前の探偵のシリーズでしょう。いわゆるハードボイルドタッチの作品で、レオ・マレという人が台本を担当し、Castermanというパリの出版社から刊行されています。この探偵は決して銃を撃たないことで知られています。タルディの漫画の最大の特徴は、登場人物の顔の描き方にあると思います。主人公も脇役も、みんなスーパーヒーローでも超悪人でもなく、等身大の人間として描かれています。特に目の描き方にそれが典型に現れています。これはタルディの人間主義というものでしょう。その眼差しには通りいっぺんの記号に還元できない、複雑な思いが込められています。
パリでボザールというグラフィック雑誌が出版されていますが、特集として「Polar & BD( 探偵ものと漫画)」と銘打った回がありました。この特集でもタルディの漫画が紹介されていましたが、嬉しかったのはタルディが1980年代初頭に描いた短編が掲載されていたことです。舞台はニューヨーク。ドミニク・グランジュという作家が台本を作って、タルディが作画を担当したことになっています。
ベトナム戦争後、祖国を逃げ出しニューヨークに渡ってきたベトナム人の若い女性は偽造の労働許可証で中華街で働いていますが、遅刻が多くて経営者から首にするぞ、と脅されています。彼女の友人はたった一人。同じ階に住んでいる年金暮らしのポーランド人の老人です。ベトナム人の彼女は一人のアメリカ人を探しており、その捜索をこのポーランド人の老人が手伝っているのです。二人が仲間になった理由は、老人はアウシュビッツの生き残りと思われ、ともに祖国で苛酷で恐怖に満ちた人生を生きてきたことにあります。漫画は二人があるアメリカ人を捜す道行を描くのですが、なぜかと言えば、その男はかつての兵士で、ベトナムで彼女をレイプし、彼女の幼い息子を射殺したからであることが彼女から語られます。男が現地に残した1枚の写真を手がかりにようやく男の行方を二人で突き止めてみると、そこはバワリ―(Bowery)と呼ばれるアルコール中毒者がたくさんいる町(現在はどうかわからないが、かつてはバワリ―をタイトルにしたドキュメンタリー映画もありました)。男は路地裏で飲んだくれています。片足は義足です。その姿を見て、老人は彼女に「俺が君に貸している銃は返してもらおう」と言います。もはや彼女が復讐するまでもなく、男もまた不幸のどん底にいたのです。タイトルは「息子を殺した者」です。
この物語は先述の通り、スーパーヒーローが悪魔を打ち倒す神話的な物語ではなく、等身大の人間の話になっています。台本は別の人間が書いたわけですが、極めてタルディ的な物語になっています。彼女をレイプし、子供を射殺したというだけでも、それは極悪人なのですが、その兵士も(ある意味で)被害者に他ならなかった、という視点があります。しみじみと感じさせられる物語です。この作品は1982年に最初に発表されました。TARDIには探偵シリーズの他にもたくさん、優れた作品があるようです。
※TARDI (Jacques Tardi ,1946-)
※探偵Nestor Burmaシリーズ (Casterman)
https://www.casterman.com/Bande-dessinee/Collections-series/albums/nestor-burma
現在、Tardiが引退し、後任としてフランソワ・ラヴァールが作画を担当しているが、3年前に筆者がラヴァール氏に行ったインタビューが以下。
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■探偵ドラマから恋愛ドラマまで インタビュー エリザベート・ブールジーヌ(女優)Interview : Elizabeth Bourgine ( actress )
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