2020年09月13日14時53分掲載
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検証・メディア
南シナ海の緊張を高めているのは中国だけなのか Bark at Illusions
貿易問題や先端技術など経済面で対立を深める米国と中国だが、両国の対立は軍事面にまで及んでいる。特に南シナ海では、両国が同時期に軍事演習を行うなど緊張が高まっているが、日本のマスメディアはその責任の大半を中国に押し付けている。
例えば、朝日新聞(20/9/4)社説は、米中双方に自制を促しつつも、
「いまの緊張を招いた責任の多くは、中国の側にある。長年続けている軍拡路線に加え、近年は近海への強引な進出で周辺国の不安を高めてきた」
と述べて、中国軍が今年8月に南シナ海で行った弾道ミサイルの発射訓練は「強く非難されるべき」だとか、中国が「南シナ海で他国が領有権を唱える岩礁などを埋め立て、軍事拠点にしてきた」ことなどについても「国際社会は見過ごすわけにはいかない」などと批判している。
朝日新聞はその一方で、米国側が緊張を高めている事例として、米軍艦船が南シナ海の中国の人工島周辺を通航する「航行の自由作戦」や、南シナ海での米軍の軍事演習、中国軍が軍事演習のために設定した飛行禁止区域への米軍の偵察機侵入などを挙げているが、それらは米国が「中国の一方的な主張を認めない姿勢」を示すための「対抗策」という認識で、日本政府は欧米諸国と連携して「中国の軍拡停止を求める」とともに、「米国に対しても冷静な対応を促す」べきだと主張している。
毎日新聞(20/9/7)社説は、中国の南シナ海での軍事演習や弾道ミサイル発射訓練は米国が「台湾への支援を強め、中国周辺での軍事行動を活発化させている」ことに対する「けん制の狙いが色濃い」と解説してはいるものの、
「南シナ海に人工島を造り、軍事化を進める中国には日本を含めた周辺諸国も懸念を深めている。いたずらに地域の緊張を高める軍事行動は厳に慎むべきだ」、
「中国は30年にわたって軍拡を続け、海洋進出を図ってきた」
などと述べて、
「中国を抑制するには米軍の存在が不可欠だ」
と主張している。
朝日新聞や毎日新聞に限らず、南シナ海について論じる時、日本のマスメディアはいつも、中国が一方的に南シナ海の軍事拠点化を進めて地域の緊張を高めているかのような印象を与えているが、中国による南シナ海での軍事拠点化の背景には、米国の軍事的脅威があるということを無視してはならない。
オーストラリアのジャーナリスト、ジョン・ピルジャー(CounterPunch、20/8/4)が指摘しているように、
「現在、400以上の米軍基地がミサイル・爆撃機・軍艦・核兵器を伴って中国をほぼ包囲している。米国の戦略家が『完璧な輪縄』と語ったように、オーストラリアから北は太平洋を通って東南アジア・日本・韓国へ、そしてユーラシアを横断してアフガニスタン・インドに至るまで、軍事基地が配置されている」
米国政府は「航行の自由作戦」や西太平洋での軍事演習を繰り返しているが、昨年は「東西冷戦以来最大の軍事演習」を行い、「マラッカ海峡のシーレーンを封鎖して西アジアやアフリカからの石油・ガス・その他の原材料への中国のアクセスを遮断」する訓練も行っている(CounterPunch、同)。沖縄で建設中の辺野古米軍新基地や、米軍と一体化した自衛隊の南西諸島での基地建設・増強も、中国に対する脅威を高め、中国の軍拡を促しているだろう。
米軍の軍事的行動が「中国の一方的な主張を認めない姿勢」を示すための「対抗策」だという朝日新聞の主張とは反対に、中国が「長年続けている軍拡路線」や「近海への強引な進出」こそ、米国が太平洋を挟んだ海の向こう側の中国周辺で行っている挑発的な軍事政策への「対抗策」と言わねばならない。
南沙諸島の実効支配や軍事拠点化は、中国だけが行っているのではない。中国の他にもベトナム・フィリピン・マレーシア・台湾がいくつかの岩礁や砂州を実効支配して埋め立てや構造物の建設などを行っており、軍事拠点化しているところもある。また、南シナ海での中国の行動を批判する際に2016年の国連の仲裁裁判所の判決が持ち出されることが多い。フィリピンの提訴を受けて行われた同裁判所の判決は、歴史的に中国が南シナ海を排他的に支配してきたという証拠はないと判断して中国の主張を退けているが、中国の領有権自体を否定したわけではないことにも注意が必要だ。判決は南沙諸島の領有権については何の判断も行っていない。領有権の判断は仲裁裁判所の管轄外だ。
仲裁裁判について付言しておくと、フィリピンが中国を提訴したきっかけは、米国政府の介入だった。フィリピン政府と中国政府は南沙諸島周辺海域でのエネルギー資源の共同探査などで合意し、中国がフィリピンのインフラ整備のための支援を約束するなど、両国は良い関係を築いていたが、2010年にベニグノ・アキノ3世が大統領に就任すると、米国のヒラリー・クリントン国務長官(当時)がフィリピンを訪問し、アキノ大統領に対して「係争中の南沙諸島の中国の占領に反対の立場をとり、米海兵隊の5つの巡回基地の存在を受け入れるよう指示」、「アキノは言われた通りに行動し、……国連仲裁裁判所で南沙諸島の領有権に関する中国の主張に異議を唱えるために米国主導の法務チームを受け入れることにも合意した」(John Pilger、Frontline、18/12/21)。
中国が南シナ海の軍事拠点化を本格的に進めるようになったのは、クリントンがアキノに「指示」を与えた後だ。
日本のマスメディアは、南シナ海での中国の軍事的行動ばかりを強調して中国の脅威をPRし、日本の軍拡や「日米同盟」の強化に正当性を与えているが、それは東アジアの緊張をさらに高めることにしかならないだろう。
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