2020年09月23日22時05分掲載  無料記事
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十時亨著「フランス料理の基本」  フランスの地方料理の豊かさ

  フランス料理のシェフ、十時亨(ととき とおる)さんが書き下ろした「フランス料理の基本」の一番の特色はフランスの地方料理が紹介されていることです。フランス料理と言えば敷居が高く、一般の人には足を踏み入れにくい印象が未だにありますが、十時さんは「家庭でも簡単にでき、普段使いでも、恋人同士でも、友人を招待したときにも、簡単に作れて、皆様に大変喜ばれ得る料理ばかりです」と冒頭で方針を述べています。 
 
たとえばブルターニュ地方のガレットブルトン(そば粉のクレープ)、じゃがいものエシルエト風、かぼちゃのスープ、有機野菜のロースト、ベルギービールのスープ、牛肉の赤ワイン煮、野菜とベーコンのスープ、地鶏のロースト(ブルボン風)などなど、確かに郷土料理の濃厚なラインナップになっています。またバスク地方の焼き菓子やルーアン風ミルリトンなど地方の菓子類も紹介されています。 
 
  「フランスは田舎育ちの私にはとてもあっていました。6年間の滞在中、ほとんどを地方で過ごし、日本人と接することのない環境で働くことによってフランス人の文化、考え方に触れようとしました」 
 
  地方料理を中心にするということは地方の食材を大切にすることであり、地方のワインやビールを使うことでもあります。そういう構成なので、今までに見たことのあるフランス料理の本とは内容も、構成も、語り口も違っているのです。その一方、もう1つの特色は、マヨネーズ、ドレッシング、ブイヨン、ソースの基本的な作り方を冒頭でしっかりと説明していることです。そして「基本」と書いただけあって、様々な食材の下処理の方法なども書かれています。 
 
  筆者が本書を読んでいて、一番感じたのは十時氏の誠実そうな人柄であり、その感じが本の中に浸透しているということでした。それはたとえば盛りつけに対する考え方にも表れているように感じました。皿に絵を描くような盛り付けよりも、料理自体が美しくおいしく見える優しい盛り方を奨励しているところです。その考え方が地方料理とうまく溶け合っています。 
 
  地方地方にそれぞれの文化があり、フランスの場合はフランス語以外に郷土の言語もオック語やブルトン語、コルシカ語など70近く存在すると言われています。20年ほど前のデータですが、フランス人の4人に1人が、フランス語と並んで、こうした地方言語を話す親か祖父母を持っているとのこと。実際、私も南フランスで話されるオック語で書かれた女性詩人の詩の朗読を聞いたことがあります。今までパリにばかり目を向けがちでしたが、フランスの地方の豊かさを知ることが、これからの日本の未来を考える上でもヒントになるのではないか、と思います。本当の地方の時代が将来日本にも訪れるとしたら、地方の食が要になると思うからです。それぞれの地方がよい料理人を抱えれば、よい食材も、よい種子も、優れた農法も消えることなく、保たれていく道があると思えるのです。 
 
 
 
■パリの散歩道  シャルルビル=メジエール 
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