2020年10月03日17時17分掲載  無料記事
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イタリア現代史ミステリー 第一弾「イラリア・アルピの死」(その4)〜チャオ!イタリア通信

(前回記事) 
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→(イタリア国営放送局記者のイラリア・アルピの死から26年。彼女はなぜ死ななければなからなかったのか。事件の経過を振り返る) 
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 イラリアとミランが乗っていたトヨタだが、事件当時重要証拠物として押収されることも、写真に撮られることもなく行方不明となる。その後、見つかったのは何と事件から11年後の2005年であった。トヨタを見つけたのは、事件直後に現場の近くにおり、すぐに現場に駆け付けたジャンカルロ・マロッキーノ氏である。国会の調査委員会の捜査により、見つけられたのだ。イタリアに運ばれたトヨタは、科学警察と委員会により弾道鑑定が行われ、再び遠くから撃たれたものと結論が出された。 
 
 しかし、2008年のローマ検察による調査で、驚くべき結果が出た。トヨタに残された血液のDNAが、イラリアのDNAと一致しなかったのだ。また、イラリア家族側の鑑定人が、スイスのテレビ局が放映した事件現場の映像に映っている車両について、トヨタとは違う車だと主張した。映像の中のトヨタでは、ミランが座っていた席の背もたれのカバーに穴は見られなかったが、委員会が押収したトヨタには穴があるというのだ。委員は、イラリアとミランの遺体に残った弾道の一つ一つを再現した結果、背もたれにある穴とイラリアの頭に撃たれた弾の穴が一致したと主張している。事件後11年経って見つかったトヨタが、事件当時に実際イラリアとミランが乗っていたトヨタかどうかは疑わしいのではなかろうか。 
 
 事件直後の証言や遺体を検査した医師の意見では、至近距離での殺害という見解が大勢を占めていたが、年が経つにつれ、遠距離からの射撃による偶発的な殺害という検死報告や意見が出てくる。そして、それを裏付けるためにニセのトヨタを作り出したのではないか。委員会は、このトヨタを使って射撃場ですべての弾道を再現し、「遠距離からの射撃」と結論づけている。一見すると、科学的な鑑定に見え、裏付けとして成り立っているように感じられるが、このトヨタが誰かの手によって弾を撃ち込まれた「作り出された証拠物」であるという可能性は考えられないだろうか。 
 
 ソマリア側の捜査内容はどういうものであったか。当時のソマリアには、国連によって構成されたソマリア警察があり、その犯罪捜査部のシェルマルク捜査官が報告書を作成している。その報告書では、イラリアは誰かに呼ばれて、危険を犯してまで南部から北部へと向かっている。そして、その誰かが、この策略を作った人物だと書かれている。つまり、イラリアとミランの殺害は策略により引き起こされたということだ。そして、イラリアとミランを呼び出した人物は、マロッキーノ氏だとも書かれている。つまり、マロッキーノ氏が攻撃を組織した人物だということである。シェルマルクの報告書には、トヨタはマロッキーノ氏の家から出てきたという証言もある。また、他の証言ではイラリアはホテル「Amana」に行ったのではなく、イタリア大使館に行ったというものもある。イタリア大使館はホテル「Amana」から約50メートルのところにあるため、イタリア大使館に呼ばれたと仮定すると、危険を犯してまで南部と北部のボーダーラインをまたいだことも納得ができるのではないか。アラビア語を話すことができ、アフリカやソマリアの事情に精通しているイラリアは、ボーダーラインを越えることの意味を十分把握していたはずで、なぜそのような危険を冒したのかは今でも謎である。 
 
 また、イラリアを呼び出したのは誰か。ホテル「Amana」にあるANSA(イタリアの通信社)の通信員であるソマリア人記者に会いに行ったという説があるが、この記者は当時ナイロビに行っていた。この記者がナイロビに行っていることは、記者仲間であるイラリアも知っていたはずであるし、危険を冒してまで会いに行く理由としては弱い。事件後、シェルマルクの部下たちが、聞き込みのためにマロッキーノ氏の家に行ったが、本人は何も話したくないと言い、武装した男たちに囲まれたために帰らざるを得なかったという。このような報告書の内容は、裏付けを取らないといけないが、シェルマルクはローマ検察の調査を受けた際に報告書にサインをしており、まったく根拠のない報告内容ということでもなさそうである。 
 
(次回へ続く) 


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