2020年10月17日19時53分掲載
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労働問題
正規雇用と非正規雇用の格差是正を 最高裁での判決相次ぐ
正規雇用と非正規雇用の待遇格差をめぐり争われていた複数の訴訟に関して、今月13日から15日にかけて最高裁の判決が相次いで示された。
大阪医科大学(大阪府高槻市)の元アルバイト職員が賞与の支払いを求めて上告をしていた訴訟について、最高裁は13日、大学が賞与を支給しなかったことは「不合理な待遇格差に当たらない」と判断、原告側の訴えを退けた。また同日、東京メトロの子会社である「メトロコマース」(東京都台東区)の元契約社員が退職金の支払いを求めて上告していた訴訟についても、正社員との間で役割などに差があったとし、「退職金の不支給は不合理とまでは評価できない」との判決を下している。
一方で、日本郵便(東京都千代田区)の契約社員らが正社員との待遇格差について訴えた三つの裁判の上告審については、最高裁が15日、いずれも「労働条件の相違は不合理だった」と判断。扶養手当、年末年始勤務手当、有給の夏季・冬期休暇などの5つの項目に関する支給を認めるべきであるとし、原告側が全面勝訴する結果となった。
これらの判決は、個別具体的な事案に関するものではあるものの、今後、各企業や機関における非正規雇用をめぐる労使関係に大きな影響を与える可能性がある。非正規雇用労働者が年々増加する中、使用者側が今後上記判決をどう捉えていくかが注目される。
なお、上記判決について、全国労働組合総連合(全労連)や全国労働組合連絡協議会(全労協)から談話や声明が出されているため参照されたい。
・全労連談話(以下、リンクURL)
http://www.zenroren.gr.jp/jp/opinion/2020/opinion201016_02.html
・全労協声明(以下、全文)
<声 明>
10月13日と15日、最高裁は非正規雇用労働者に対する均等待遇の実現を求めた労働契約法20条を巡る5件の判決を下した。全労協加盟の契約社員組合員が2014年5月に起こしたメトロコマース事件では、高裁で不十分ながらも差別を不合理とした退職金について、「不合理とまでは言えない」として不支給を容認する不当判決となった。全労連加盟組合員(フルタイムのアルバイト職員)に関する大阪医科大事件でも、賞与不支給という差別について同様の判決が下された。一方、全労協加盟の郵政非正規労働者による3件の20条裁判は、諸手当、休暇制度で全面的に格差を不合理とする勝利判決となった。
それぞれの裁判で労働者側は、基本給、賞与、諸手当、退職金、休暇制度等に不合理な差別があることを明らかにしてきた。しかし経営側は、異動の範囲、業務内容や責任の程度に違いがあり相違は合理的だとした。一審、二審と闘いを重ねる中で、司法はいくつかの項目について、非正規差別の存在を「不合理」と判断した。賞与(大阪医大)、退職金(メトロコマース)では、不合理を認めながらも支給率等の差別は程度の問題として許容された高裁判決となったが、今回の最高裁判決はそれらすら切り捨てた。基本給、賞与、退職金等の「本丸」について、勝利した郵政も含めて司法が判断を示さなかったことに対して強く抗議する。その一方で、郵政の最高裁判決では、手当・休暇で雇用期間の長短による差別を容認した高裁判決を、期間を限定することなく、10割支給に改めさせるなどの画期的判断を引き出すこととなった。
市場原理主義が跋扈する中、経営側は正規雇用から非正規雇用への置き換えを進めた。その結果として雇用形態は多様化され、労働条件の個別化が進行したことを受けて、労働契約法が2007年に制定された。労働契約法は、労使対等の原則等と並んで、「均等配慮の原則」をその柱とした。確かに同法20条は、有期雇用労働者の労働条件と、期間の定めのない労働者の労働条件に不合理な相違があってはならないと定めている。しかし、不合理か否かについては様々な解釈が可能な、極めて不十分な内容だった。その不十分性については、法廷闘争を含む様々な場面で争われていくこととなった。
労働者側が一貫して非正規労働者の処遇改善・均等待遇、生活できる賃金の保障の実現を問いつづける中、2012年には18条、19条、20条が改定公布され、2013年4月に18条(無期労働契約への転換)、20条(不合理な労働条件の禁止)が施行、今年4月からは20条がパート・有期雇用労働法に集合されるという改正の歴史をたどってきた。パート・有期労働法では基本給、賞与を含むあらゆる待遇の不合理な格差を禁止することとなった。
日本の非正規雇用労働者の占める割合は、1991年のバブル崩壊以降拡大しはじめ、1995年に日経連(当時)が「新時代の『日本的経営』」を発表し、労働力の弾力化・流動化を謳い上げて以降、拡大の速度を増してきた。非正規雇用は、有期労働契約のパートタイマー、アルバイト、契約社員等に加えて、派遣社員の適用範囲が拡大され、さらには雇用関係に依らない働き方とも言われる、労働法の適用を受けない「労働者」が急速に拡大している。今では非正規雇用の占める割合は4割に達し、公務公共サービスにも非正規公務員が増加の一途をたどっている。非正規労働者の存在なくして、この国の企業活動、公務公共サービスはもはや成り立たない。そしてその多くが、最低賃金に張り付いた賃金水準となっている。
政財界は拡大する非正規雇用について、一貫して、労働者のニーズに合わせた「多様な働き方」のひとつとして説明してきた。しかし事実は、安上がりな使い捨て労働力でしかなかった。その一方で、パソナなど中間搾取で肥え太る派遣業などは隆盛を極めている。そして、正規雇用労働者に対しては過剰な忠誠心と過酷なまでの長時間労働が強要されてきた。2008年のリーマン・ショックが世界的な不況をもたらすと、日本では非正規労働者に対する解雇・雇い止めが横行し、「多様な働き方」はその正体を現わした。にもかかわらず、こうした非正規拡大の流れは、昨今の働き方改革の中でも変わることはなかった。そして今日、コロナ・ショックが全世界を覆い、非正規に対する解雇・雇い止めの横行が再び頭をもたげている。
非正規という雇用形態は、間違いなく、企業の生き残りのために企業の都合によって作り出されてきたものだ。雇用形態の違いによって労働者の値段に差をつけられたのだ。それ自体が、本来許されない。真に労働者のニーズに合わせた多様な働き方のひとつとして非正規を位置づけるのであれば、今回判決によって勝ち取った成果をすべての非正規労働者に拡大適用させる職場での取り組みと実効性のある法改正を進めるとともに、取り残された差別を、新たな闘いによってひとつひとつ覆して完全な均等待遇に到達させなければならない。非正規の7割を占める女性労働者が、今回の手当に関わる判決から取り残されないよう、手当支給に関わる女性差別撤廃の闘いも併せて進めなければならない。
全労協は、均等待遇実現の旗をさらに高く掲げ、志を同じくするすべての労働者、労働組合、労働団体と手を携え、闘いを進めて行く。
2020年10月16日
全国労働組合連絡協議会
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