2020年10月30日23時45分掲載  無料記事
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コラム

今年の米大統領選はアメリカ人の政治的復元力が見える選挙  〜鍵は最高裁判事のバランスに対する米国人の見方〜

  今年の米大統領選は共和党のトランプ大統領が再選を決めるのか、民主党のバイデン候補が勝利するのか。トランプ氏が前回の2016年の大統領選では新聞各紙でヒラリー・クリントン候補に敗れると書かれていた中、逆転勝利を飾ったことは記憶に新しいことです。今回も世論調査で10ポイント近くバイデン候補がリードしていますが、ふたを開けてみるまでわからない選挙です。 
 
  私が今回の選挙で注目するのは、大統領選のまさに直前にトランプ大統領が最高裁判事に共和党寄りのエイミー・コーニー・バレット判事を据えることに成功し、最高裁判事の保守派(つまりは共和党派と考えられる)が6人、リベラル派が3人と大きく差がついてしまったことです。これが何を意味するか、と言えば、トランプ大統領が再選をしてしまうと、最高裁=司法とホワイトハウス=行政府がともに共和党寄りになり、共和党がかなり強い権力を持つことを意味します。トランプ大統領がもし2期目を行うことになると、80代のリベラル派の判事がもし亡くなった場合は最高裁がさらに共和党寄りになることが考えられます。保守派7に対してリベラル派が2になることもありえるのです。最高裁判事が終身の身分であることを考えると、裁判所が共和党寄りになってしまい、米国の誇る三権分立が建国以来の危機になってしまうであろうことです。これは言い方を変えると、米国が「一党独裁」に一歩近づくことであり、米国人の批判してきた中国やソ連やキューバの政治体制に近づくことを意味します。米国民は大統領選の直前に、エイミー・コーニー・バレット判事を承認するための議会での質疑応答のシーンをTVで見せられたため、最高裁判事のことが投票行動に意外と大きな影響を与える可能性があると私は思っています。 
 
  米国人にとって米憲法は世界に誇るべき文化的遺産であるはずですが、それはつまり米国人が権力の均衡を大切にすることが政治にとって何より重要であることを日本人よりも、おそらくどの国民よりも、はるかに理解しているであろうことです(※)。米政治が2大政党制を維持してきたのも、このバランス感覚(※)と関係していると思います。あるいは政治的復元力とも言えます。ですから、米国民の政治的なバランス感覚ひいては権力に対するセンスの健康性が保たれているかどうかを垣間見れる大切な選挙だという気がします。それは風邪で体調が悪化した人に体温計で体温を測ることに似ています。トランプ大統領にとって、選挙直前に最高裁判事のバランスを5対4から6対3にしたことが、果たして功を奏する策だったか、それとも最悪の手であったのか、それがわかる選挙だと思っています。 
 
 
※政治哲学者のハンナ・アレントは「米国の政治体制の構築で、大きな意味を持った思想家が『法の精神』で三権分立を唱えたモンテスキューだったという。フランス革命にとって最大の思想家がルソーだとすれば、アメリカ革命の最大の思想家はモンテスキューだったとしている。この権力分立の思想こそが米国を強くしたのだと。」(ハンナ・アレント著「革命について」 〜アメリカ革命を考える〜) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201401201800171 
 
※米国では4年ごとの大統領選の間に2年ごとに中間選挙があり、その時、大統領の政策に批判があれば懲罰的な投票結果が出ることが多い。立法府に行政府に対する批判勢力を増やすのである。これは米国人のバランス感覚でもあるだろう。この傾向はどちらの政党がホワイトハウスを握っていても起こる現象である。今回のケースで言えば2018年の中間選挙で民主党が躍進し、下院のマジョリティを奪還した。通常はこの懲罰的措置があったことでバランスが戻り、逆に大統領の再選に有利に働くことがある。しかし、今回、大統領選の直前に(つまり中間選挙の後に)最高裁判事に新たに共和党色の判事を加えたことで、これに対する懲罰的投票行動がありうるかが、今回の大統領選の1つの鍵になるのではなかろうか。 
 
 
村上良太 
 
 
■「独立宣言と米憲法」(The Declaration of Independence and The Constitution of the United States) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201401102038235 
 
■モンテスキュー著「法の精神」 〜「権力分立」は日本でなぜ実現できないか〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201312260209124 
 
■「ザ・フェデラリスト」(ハミルトン、ジェイ、マディソン) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201211252338410 
 
■ジョン・ロック著 「統治二論」〜政治学屈指の古典〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201312221117340 


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