2020年11月03日20時44分掲載  無料記事
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検証・メディア

菅義偉、ニュースウオッチ9で言いたい放題  Bark at Illusions

 NHKのニュースウオッチ9(20/10/26)に出演した菅義偉総理大臣は、日本学術会議の会員人事で政府に批判的な立場の6名の会員候補者の任命を拒否している問題について、言いたい放題、持論を展開した。 
 
「日本学術会議というのは……年間10億円、国の予算を使って活動している……政府の機関なんです」 
 
「会員の人選……について、私は総合的・俯瞰的ということを申し上げてきました。幅広く客観的という意味合いもあるんですけれども、……民間出身者や若手研究者、あるいは地方の会員、そうした人たちも選任をされる多様性というのが、これ大事だというふうに思ってます」 
 
「現在の会員が、後任の方を推薦をすることもできる。そういう可能性があるんです。そういう仕組みになってるんです。結果的に一部の大学に偏っている」 
 
「(任命を拒否したことついては)説明できることとできないことって、あるんじゃないでしょうか」 
 
このように強弁する菅義偉に対し、キャスターの有馬嘉男は「説明」が足りないのではないかと迫るのが精一杯だった。なぜ、ニュースウオッチ9は菅義偉の発言の誤りや問題点を指摘しないのか。 
 
 菅義偉は会員の任命拒否の理由について説明する際、学術会議に10億円の国費が投入されていることを強調するが、だからと言って政府が人事に介入してもいいということにはならない。しかも予算約10億円のうち、学術会議会員への手当はごくわずかだ。毎日新聞(20/10/10)などによると、2020年度の予算は事務局の人件費(内閣府の職員約50人)が約4億4000万円、庁費約1億5000万円、国際学術連合会議の分担金約1億円、会員・連携会員の旅費約1億4000万円などで、会員・連携会員(2210人)への手当は約1億7000万円に過ぎない。手当は会合などに出席した場合に2万円程度支払われるが、「年度下半期になると予算が逼迫し、手当なしで活動することも頻繁にある」(毎日、同)そうで、10億円の国費の投入は欧米の類似の組織と比較しても少ないくらいだ。 
 また「多様性」の問題については、日本学術会議元会長の大西隆・東京大学名誉教授が反論している。大西氏が10月28日に野党に提出した文書によると、 
 
「東大在職者や関東地方の会員の割合は低下傾向にある。東大は2020年10月時点で16.7%で、11年10月(28.1%)から低下。関東地方も49.5%(20年10月)と59.5%(11年10月)から減った。女性会員の割合も37.7%と増加」 
 
している(朝日20/10/29)。また「大学以外に所属する会員も増加傾向」で、若手については「若手アカデミーを発足させ、45歳未満の若手研究者も連携会員(約2千人)として確保している」(沖縄20/10/29)。NHKに公正な放送を心がける気があるなら、ニュースウオッチ9はこうした反論も伝えるべきだろう。もっとも、会員が「旧帝国大学と言われる7つの国立大学に所属する会員」に偏っていると言いながら(10月30日の菅義偉の国会答弁)、私立大学に所属する3人の会員候補の任命を拒否しているのだから、「多様性」を考慮したという説明には無理があるけれども……。 
 会員候補の推薦については、日本学術会議法で「優れた研究又は業績がある科学者」であることが唯一の会員推薦基準として定められており、これに基づき、選考委員会が判断している。会員が推薦した候補者が自動的に会員になるわけではない。 
 また総理大臣による会員の任命は形式的なもので、総理大臣は日本学術会議が推薦した候補者を拒否しないことになっている。任命を拒否できるのは、「明らかに、法の目的に照らして不適当と認められる場合」(1969年7月24日の高辻正己法制局長官の答弁、引用は赤旗20/10/9)に限られており、「総合的・俯瞰的」に判断したとか、「多様性」を考慮したなどといった理由で任命を拒否することはできない。任命を拒否するなら、菅義偉は拒否した6名の候補者が「明らかに、法の目的に照らして不適当と認められる」ことを、任命権者として示す必要がある。「説明できることとできないことがある」などと言って逃げることはできない。 
 
 任命を拒否された6名は、いずれも安保法制や秘密保護法などに批判的な立場の候補者だ。今、菅政権は政府に批判的な学者を理由もなく排除しようとしている。学問の自由や言論の自由に対する侵害であり、今後の日本社会を左右する重要な局面だ。菅義偉による学界への弾圧を、「説明不足」で済ませるわけにはいかない。NHKは政府の言動を批判的に検証し、公共放送としての役割を果たせ。 


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