2020年11月07日18時19分掲載
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欧州
イタリア現代史ミステリー 第一弾「イラリア・アルピの死」(その9)〜チャオ!イタリア通信
(前回記事)
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→(イタリア国営放送局記者のイラリア・アルピの死から26年。彼女はなぜ死ななければなからなかったのか。事件の経過を振り返る)
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現在でも、イラリアの最後のインタビュー映像を見ることができる。場所は家の中。映像では、右側にボゴール氏、左側にイラリアの後ろ姿が見える。ボゴール氏の背景には、水色の壁とモザイク状になった窓があり、そこから地中海の乾いた太陽の日が差し込んでいる。ボゴール氏は白いシャツを着て、短い髪とあごひげに白髪が混じった60代ぐらいの男性だ。イラリアは水色のシャツを着て、薄いピンク色のシュシュで髪の毛を束ねている。二人の間にあるテーブルの上には、イラリアのメモ帳とペンが見える。イラリアは手にマイクを持って、ボゴール氏にインタビューをしている。最初の8分はソマリアにおける国連やイタリアの活動について、これからのソマリアがどうあるべきかについて質問している。
その後、イラリアは話題を変えると前置きして、インタビューをこう続けた。
イラリア「スキャンダルがあるが、イタリアのパスポートを持つソマリア人で、ムグネという人物が国所有の船を私的に使用しているという・・・」
ボゴール「彼・・・」
イラリア「そう、彼・・・」
ボゴール「彼だけ?」
イラリア「彼と他の人たちも・・・?何が起こったのか、あなたに聞いているのですが」
ボゴール「彼は、バーレ政権が崩壊する時にこの国の船団のトップにいた。この船団はシフコという公共企業で、実質的にバーレ政権のものだった。ムグネはシフコの運営者だった。バーレ政権が崩壊した時、シフコの船を使って逃げた。乗組員をすべてタンザニアで降ろして、自分はイタリアに逃げたのだ。そしてイタリアの会社が保護し、その後はその会社がすべてを動かしている」
イラリア「その会社の名前を知ってますか」
ボゴール「名前?誰が知ってる?」
イラリア「私は知らない・・・」
ボゴール「とにかく、見つかるよ」
イラリア「もしあなたが手助けしてくれたら、すぐ見つけられる・・・」(笑い)
ボゴール「自分で調べなきゃ、自分の足で稼がなきゃ・・・」(笑い)
イラリア「手助けしたくないのですか?」
ボゴール「ああ、できないね。この会社は至る所にスパイがいるからね」
イラリア「これらの船はイタリアにいるんですか」
ボゴール「大部分は、ここにいるよ」
イラリア「どこに?」
ボゴール「ここ、地中海に。我々が一艘船を持っているよ」
イラリア「何があったんですか。何をしたんですか。船を手に入れた後」
ボゴール「船を持っているんだよ。何で?船員の中に親戚でもいるの?」(笑い)
イラリア「そう、船員の中に親戚がいるんです」(笑い)
ボゴール「船長か、は、は、は」(笑い)
イラリア「そう、船長・・・・」(笑い)
ボゴール「船をそこに置いているよ。その地域がコレラにやられたから。私が知っているのはね」
イラリア「船はどこですか?船を見ることはできますか?」
ボゴール「見る?何で。あなたは”シスミ”(*)から来てるの?何で見なくちゃならないの?情報だけでいいでしょ」
(*「シスミ(SISMI)」とは、1977年に創設されたイタリアの防諜機関で2006年には対外情報・保安庁に改編された。)
イラリア「見なかったら、信じられないですよ」
ボゴール「人口衛星で・・・」(笑い)
イラリア「人工衛星なんて持ってない・・・・」(苦笑い)
ここでなぜかイラリアがマイクをボゴール氏から遠ざけたため、何を言っているのか把握することができなくなる。その後、ボゴール氏が「・・・ローマ、ブレーシャ、トリノから来ていた」と言うのが聞こえる。船がこれらの都市からソマリアにやってきていたのだろうか。そして、映像が切られ、再びインタビュー映像が続く。
ボゴール「誰にとっても重要じゃなかった。今でも重要じゃない」
イラリア「いいえ、今イタリアの新しいことは裁判をすることですよ。今は5,6年前とは違う」
ボゴール「そう?新しいイタリア・・・よかったね。革新者を連れてきてよ。そしたら、信じるから」(皮肉な笑い)
この会話で、イラリアが「マーニ・プリーテ(清廉の手)」の捜査をポジティブに捉えているのがわかる。しかし、イラリアが殺害されたということはやはりイタリアは新しく変わることはできなかったということであろうか。
この後、船の話が1分ほど続きインタビュー映像は終わる。映像は15分程で、二人の会話はその後も続いたと思われるが、今現在で我々が見ることができるのはここまでである。船の話の中で、ボゴール氏はバーレ政権崩壊後、所有者不明の7艘の船があったと言っている。それが、今は1艘で、2艘はどこかに行ってしまったと。そして、20日前に一艘の船「ファラ・オマール」という名前の台湾製の船がソマリア海域にいると話している。イラリアは、数ヶ月前にイタリアの船が盗まれたと聞いているが、ボゴール氏はイタリアの船ではないと答えている。インタビュー内容が切れているので、何の話をしているのか理解が困難なのだが、ソマリア海域に正体不明の船が出現したり、海賊船による被害を受けたという話なのであろうか。確かに、この頃からソマリア沖ではこういった問題が持ち上がり、現在でも続いている。こうした正体不明の船や海賊船がイタリアと繋がりがあったとしたら。
イラリアの残したメモには「ムグネ−ファラ・オマール−ヴィアレッジョ(イタリアの港湾都市の名前)」と書かれており、イラリアがこの都市との関連を頭に描いていたことは確かである。シフコは武器売買や有害廃棄物輸送の疑いが持たれており、その船の一部がバーレ政権崩壊後もイタリアの会社によって違法な目的で使用されているとしたら。インタビューでは、ボゴール氏の返答でイラリアが触れてはいけないことに触れたことがわかる。それは、ソマリア側だけでなくイタリア側にとってもだ。この後、イラリアとミランがこの船を見つけ出したのか、そして撮影することができたのか。そのために彼らは殺害されたのか。それは今もって知る由もない。
(第一弾 完結)
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