2020年12月15日21時31分掲載
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文化
【核を詠う】(318)『火幻四十周年記念合同歌集』から原子力詠を読む(5)「地球上に生れし動物の最悪は人間なりと原爆記に見つ」 山崎芳彦
『火幻短歌会40周年記念合同歌集』は平成9年(1997年)に発行された広島の火幻短歌会(豊田清史代表・故人)の合同歌集であり、330人の歌人の作品(1人20首)を収録した665頁に及ぶ大冊である。其の6600首の中から筆者の読みにより「原子力詠」を抄出、記録させていただいた。収録された作品は、原爆投下による被災の惨状の中を生き抜き、まことに容易ではない苦難の生活の中で詠われていて、その中から「原子力詠」を抄出することは、非力な筆者にとって、困難に過ぎることであり、人が生きる、そして詠った作品に対して、多くの不行き届きな「読み」があったことと思い、すでに故人となった作者には届かないが、お詫びしご寛容をお願いするしかない。今回が最後になるが、核兵器も核発電もない世界をめざすたたかいの前進、実現を願いながら、作品を読んでいく。
キノコ雲白き閃光を火薬庫の炎と飛語され杳き忌の惨
花祭酔う街角に過を犯しませんと石は叫ばむ
(2首 久芳房子)
出征に夫婦で交しし水盃爆死の夫も五十回忌近し
幼な児を二人抱えて泣き明かしし仏壇の前三日三晩も
親子四人の平和な家庭も一瞬に原爆に裂け神仏なきか
水欲しと逝きし先夫の原爆忌司令部の庭まなうらに顕つ
(4首 平岡アヤメ)
広島駅より江田島見えしと書きていし夫の被爆申請の手記
原爆で県職員死亡と聞きし夫兄を探して市中彷徨(さま)よいし
家の焼跡に夫の頭蓋骨一つありしとそは重かりしと語りいませし
比治山にて被爆せしとう従兄姉ら思い念仏しつつ山を巡りぬ
(4首 平原きみえ)
五十余年を嘆かう人の悲しみに幾度か泣けり被爆者ならずも
原爆の言葉今しも放映さる豊田主幹の歌ひしひしと沁む
全人類より核実験の狂気去れ宇宙遊泳に見る青き地球より
戦争に協力せし人の自己弁護あまりに好都合と大江健三郎書く
(4首 福田チトセ)
魂の叫び原爆資料館未来に重し核廃絶の声
フランスの核実験に声高し反核平和の父森瀧先生偲ぶ
叫べざる貝よ海星(ヒトデ)よ フランスの核実験に美しい海をけがすな
(3首 福場静子)
力なく祈るほかなきを思いつつ反核の候補に票を入れたり
原爆で頼山陽の幽室は焼き果てき慕い給いし師もなくすべなし
(2首 藤井サヅカ)
灼熱の炎妖しくひろごれる黒き素肌が秘めし原爆(ひ)の彩
(藤岡艶子)
反核の先頭行くは皆老いし被爆者の列よろめきにつつ
夏来れば原爆資料館おもい出す行けねどテレビの画夫と見入る
(2首 藤原トモエ)
閃光をとらえし監視哨あと城山新年の陽和らかく受く
ピカドンが死語になるやの記事にふれ孫に伝えん朝餉食みつつ
筆(ペン)放り兵器造りしお下げ髪きのこ雲説く語り部となられし
(3首 堀 千代子)
遠き忌のうすれて昧し影保つドームの空はめくるめく碧空
広島の哀しみ重くひそめたるドームは夏の彩に又逢う
碧空の彼方に真白く盛り上る雲の峰仰ぐ明日は八月忌
(3首 細川泰子)
炎天に歩み遅々たり一団の核廃絶の文字汗に浸みて
(本郷菊枝)
思い出のつまりし柿の樹齢五十二年の苦しみ歎きしみ込んでいる
(幕内良恵)
被爆して火傷の乙女は生理日の血を流しおり恥ずるすべなく
水をつけて包帯はがせば唸る人に背中のやけど蛆は見せざりし
北鮮の核を言云する国の核全廃こそ願いて止まず
裸木は無気味に立ちて野鳥(とり)啼かず、仏核実験六度強行す
(4首 松岡多加笑)
瞑りても閉じても瞼を灼く炎拂いつつ睡る罪なすごとく
瓦礫の上に屈みて妻の骨探す老の白髪を嬲る寒風
遠き日の阿鼻叫喚を吸いし岸に繋がれてボートの揺れ寂かなり
営々と核作り溜む強国が地球を救えと賢しらに言う
(4首 松田弘江)
ケロイドを胸に抱きて友逝きぬ只一人きり朝の寝床に
(宮野滋子)
「水欲りて果てにきみ霊に奉る噴水」と説く遠来の娘に
天に地に願い届かんヒロシマの折鶴粛と光彩はなつ
太古より神秘に回るこの宇宙核の汚染にむしばまれ生く
(3首 森下知子)
閃光をまなうら深くやきつけし被爆の人らうらみ深く老ゆ
幾万の焼かれし怨み聞こえずや花の祭典その上をゆく
原爆忌めぐりて五十一年目風化させまじ原爆惨禍
(3首 森瀧静枝)
地の底に哭く過去秘めしヒロシマにアジア大会の聖火は燃ゆる
(森増藤枝)
被爆者の妻の忌日を独房に座しいて読まん革命史など
夜の牢の隅に置かれし水甕の中より聴こゆ亡き妻の声
(2首 安田のりお)
戦いは戦地にあらぬ広島の原爆に散りたる老若男女
原爆に燃えて再建なき母校の山中高女よ夏巡り来る
血は地に染め川に水乞えり原爆に散りしは遠く五十年経つ
八・六忌彼のきのこ雲思いつつ真昼間静かに仏具を磨く
(4首 柳川 庚)
原爆後動員されて夫の履きし地下足袋の死臭のにおい今に忘れず
師は身の被爆いといもあらずわが母校に講演さるるあつき盆月
「平和と千羽鶴」師の心汲(く)みわが里の山の学童しかと聴きたり
(3首 山縣コトエ)
被爆せる義妹(いもうと)病みて三十二年今訃報受く梅雨(あめ)の降る夜
(山口千枝子)
被災死の母ひたかくし幼児をあやす父にも涙枯れ果つ
(山口恃至)
半世紀を核廃絶に尽されし故森瀧師は人類の遺産とも
半世紀過ぎて酷かりし原爆のいきさつつぶさに明かす米人の顔
地球上に生れし動物の最悪は人間なりと原爆記に見つ
(3首 山沢さつき)
信・不振・和平・平和の公園を野生にあらざる鳩が占拠す
(山田美露鬼)
被爆秘め老と病に疲れみす友のケロイド胸にたためる
寄せ書きの色紙を手にして別れたる義弟の訃報に被爆の惨たつ
(2首 山名雪枝)
一通の手紙届きし亡き姑の原爆慰霊に今年も参加せしと
(山光八笑)
五十一年経し原爆の炎めらめらと蘇りくる師の骨四百首に
(吉口ツネヨ)
じゃが芋に放射線かけ芽を殺す原爆の怖さ知るや為政者
医師頼みせめて今年も生きたしと健康食品探す被爆者
原爆の恐さを知らぬ人達に神よもっと知らしめ給え
増築の原爆資料館をいつの日か涙を深く見学したき
(4首 吉田マサ子)
過ぎし日にもえたじゃが芋の本読みて原爆の怒り胸にたぎりて
広島の遺書読みふけり涙しつつ怒りの心にあかときを迎う
(2首 龍華菊枝)
四十八年目の原爆忌サイレン眼裏に地獄さながら死の山迫る
五十一年を瓦礫に埋もり魂魄は叫ぶもあらず朽ちゆくのみか
(2首 渡辺トシヱ)
『火幻四十周年記念合同歌集』から筆者の読みにより「原子力詠」を収録させていただいたが、今回で終る。
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