2020年12月27日06時35分掲載  無料記事
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コラム

俳優クロード・ブラッスール氏の死去

  私がフランス映画を見る時、よく思うことはアラン・ドロンやジャン=ユーグ・アングラードのような美形俳優とは別のところで、三枚目系の俳優たちが活躍しており、人気が高い人がたくさんいることだ。ゴダールの映画「軽蔑」(Le Mepris)で妻役のブリジッド・バルドーから見放される辛い役を演じたミシェル・ピッコリも私には長年、なぜ人気が高いのかよくわからなかったし、亡くなった今もわからない。しかし、確かに彼の登場する映画を見ると、独自の存在感を保っていて主役を張ってきた。先日、亡くなったクロード・ブラッスールという俳優もそうだ。 
 
  クロード・ブラッスールも二枚目の俳優ではない。三枚目だが、ちょっとおちゃめなタイプの男優である。亡くなって多くの人が追悼の意を表していることからも、人気が高かったことをうかがわせる。ブラッスールという名前と顔の雰囲気から、どうしても私の中ではある男優が浮かんでくる。それはマルセル・カルネ監督の「天井桟敷の人々」(Les enfants du Paradis)に出てくる舞台俳優を演じたピエール・ブラッスールである。ピエール・ブラッスールはこの映画でパントマイム道化師を演じたジャン=ルイ・バローと浮気な女芸人アルレッティを奪い合うロマン派的な俳優を演じた。どちらもブラッスールであり、調べてみるとクロードはピエールの息子だった。 
 
  クロード・ブラッスールの登場した映画の1つにアラン・ドロンが弁護士役でドロンのパートナーのミレイユ・ダルクが精神疾患のある殺人者を演じた「愛人関係」(Les Seins de glace)という映画があった。この映画でクロード・ブラッスールは謎めいた美女をナンパして、自ら危険の中に巻き込まれていくコミカルだが、どこか憎めない誠実さもあるドラマ作家を演じていた。その役柄は父親のピエール・ブラッスールが演じた「天井桟敷の人々」における役柄とよく似ている。女性に積極的にアタックするが、暴力は行わない。そういうところに、心のゆとりというか、フランス人の好む人間性が描かれていたのかもしれない。女性に対して情熱をもっているが、決して野暮ではない。そしてある種の勇気を持っている。 
 
  フランスの追悼記事ではソフィー・マルソーが主演した「ラ・ブーム」(La Boum)の父親の役や「象、それはひどい浮気をする」(Un elephant, ca trompe enormement)という映画の女好きの4人の中年テニスボーイの一人といった役が挙げられている。ジャン・ロシュフォールらと共演した後者は特に多くの人が彼を思い出す映画のようだ。トリュフォーやゴダールと言ったヌーベルヴァーグの代表的な監督たちの映画にも出演している。2006年に公開された「モンテーヌ通りのカフェ」(Fauteuils d'orchestre)という映画ではクロード・ブラッスールはすでに年老いた美術のコレクターの役だったが、老いてもどこか色気があり、気品を感じさせた。とくにその声は渋く、深みがあった。老いたドン・ファンという役どころだった。享年84。多くのファンたちが悲しい思いをしていることだろう。 
 
 
※ルモンドの追悼のニュース映像 
https://www.youtube.com/watch?v=jGW_8afePvI 


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