2021年01月03日15時30分掲載  無料記事
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欧州

核兵器禁止条約とイタリア〜チャオ!イタリア通信

 今年1月22日に核兵器禁止条約が発効しますが、日本もイタリアもまだ条約に署名していません。イタリアで核兵器禁止について、政治上何も動きがないわけではないのですが、イタリアはNATO加盟国であり、NATOの中でも「ニュークリアシェアリング」(核兵器を共有すること。NATO内における核抑止力の政策上の概念)の参加国であるということに制約を受けています。ロンバルディア州のゲーティ基地とフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州のアヴィアーノ基地には、アメリカの核爆弾B61-4が50個保管されていると言われています。イタリアには、全国に約10の大きな米軍基地があります。そのほか、通信基地や武器格納庫などを合わせると全国に111もの米軍関係の施設があり、核兵器禁止への動きは政府として課題にあげたくない、真正面から議論の対象にするのは避けたいというのが本音ではないでしょうか。 
 
 こうした政府の態度とは裏腹に現実は、イタリアはNATOの戦略に着々と組み込まれつつあると言えるのではないでしょうか。昨年11月後半にマタレーゼ建設会社(プーリア州バーリ市)がゲーティ基地(ロンバルディア州ブレーシャ市)に司令部と軍事シミュレーションのための建造物を建設する工事を開始しました。2022年7月に工事終了予定です。費用は防衛省の負担で、9130万ユーロ(約115億円)となります。そこには、核爆弾B61-4 が保管されることになっており、2022年から2024年までには最新の核爆弾B61‐12と置き換えられる予定です。B61-12 は、地下にある目標物も爆撃することができ、広島で使用された核爆弾の4倍の核エネルギーを持っています。それでも、アメリカの兵器庫に保管されている核爆弾ほどの破壊力はないため、限定的な核対立の場面での使用が想定されています。この核兵器の使用はアメリカの管理下にあるため、イタリアの権限は何もありません。アメリカ科学者連盟の会長が、ゲーティ基地にはB61-12 を最大でも20個保管する予定で、さらにこの最新爆弾を搭載するための新しい戦闘機F-35を20機配備する必要があり、その購入費用は23億ユーロ(約3000億円)になると報告しています。こんな途方もない金額をイタリアは、アメリカとの核抑止力政策のために費やすことになるのです。 
 
 こうした現実はあまり認識されていないような気がします。私が14年間イタリアに住んでいて、全国的なチャンネル放送でこうした話題は全く聞いたことがありません。マスコミ操作がされていることは確実なんですが、「中立で平等な立場」で報道すると言われる、元首相のベルルスコーニ氏が運営する国営放送ではない放送局であっても、そのような報道は聞いたことがありません。今回、私も色々と調べ、ネット新聞や平和運動団体のサイトで上記のような内容を知ることができました。政治に興味がある私の夫でさえも、よく知らなかったという現実があります。そして、1年に5,6回は必ずある学校の教師たちによるストライキも、背景にこうした税金の使い方があると知ると納得がいきます。私たちの税金が教育に使われているのではなく、軍事費用に使われているのであれば、ここを正さない限り解決は見えないのではないかと思うのです。 
 
 ただ希望が持てるのは、イタリア世論の70%は核兵器禁止条約に賛成しています。また、アメリカの核爆弾を撤去すべきと考えている人も60%います。そして、66%がアメリカの戦闘機F-35機の購入に反対しています。これらは、19年4月に行われた核兵器禁止条約の国際キャンペーンでのアンケート結果です。 
 
 このアンケートでは、アンケートに答えた人たちがどの政党を支持しているかも調査しています。核兵器配備への拒否は、「五つ星運動」を支持する人の71%、左派の党(「自由と平等」と他党)の80%、「民主党」の58%、「フォルツァ・イタリア」の58%、「同盟」の56%となっています。つまり、左派、右派問わず現在イタリアの主な党支持者の半分以上は、核兵器配備を拒否しています。さらに核兵器禁止条約への批准に関しては、「五つ星運動」支持の76%、左派連合の88%、「民主党」の78%、「同盟」の64%、「フォルツァ・イタリア」の60%の人が賛成しています。 
 
 イタリア世論は、核兵器禁止条約への批准について異議はないと言えますが、国会での討論に行くまではもっと大きな国民内での動きを作っていく必要がありそうです。政党としては、「五つ星運動」が核兵器禁止条約を重要課題としています。昨年9月26日、国連の「核兵器の全面的廃絶のための国際デー」で、五つ星運動の上院議員団がこのことを表明しています。現在与党となっている「五つ星運動」は、野党であった時でも国会内でこの課題を取り上げています。しかし、例えば2017年のジェンティローニ首相(民主党)は、「国際社会の中で強い反応を起こすイニシアチブを持つことは不適切と考える」と発言しており、核兵器禁止条約に署名批准することが、NATO同盟国内での亀裂を生み出すと考えているようです。つまり、アメリカ主導のこの軍事同盟を保持していく立場を維持する路線に反対する姿勢はありません。現在のコンテ首相も19年の国会で、核兵器廃絶については「<大きな注目>をするが、<前進的かつ包括的なアプローチ>を優先する」と発言しており、従来の政府と同様に明瞭な発言を避けています。 
 
 NATOという軍事同盟の枠組みに組み込まれているため、核兵器禁止条約への署名批准には時間がかかるかもしれませんが、与党「五つ星運動」とともに条約賛成の世論を高めていくことが求められています。私も唯一の被爆国である日本の歴史を知っている者として、何らかの力添えができればと思います。 


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