2021年01月31日21時09分掲載
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検証・メディア
ソウル中央地裁の画期的な判決を不当扱いする日本政府とマスメディア Bark at Illusions
大日本帝国時代の日本軍性奴隷制度の被害者が日本政府に対して損害賠償を求めていた裁判で、韓国のソウル中央地裁は原告の訴えを認め、日本政府に賠償を命じた。日本政府の損害賠償責任を初めて認めた画期的な判決は、人権を重視する市民感覚からすると極めて常識的なものだが、日本のマスメディアは、「断じて受け入れることはできない」と反発する日本政府と歩調を合わせ、不当判決としてこのニュースを伝えている。
判決について、
「菅総理大臣は断じて受け入れることはできないと述べ、韓国政府に対し、国際法上の違反を是正する措置を取るよう求めました」
と、ニュースの概要を冒頭で伝えたNHKニュース7(21/1/8)とニュースウオッチ9(21/1/8)は、「主権免除」と「日韓請求権協定」を根拠に判決は不当だと主張する菅義偉総理大臣の会見での発言を紹介。
「国際法上、主権国家は他国の裁判権には服さない。これは決まりですから……この訴訟は却下されるべき、このように考えます。そして日韓の慰安婦問題については、1965年の日韓請求権協定において、完全かつ最終的に解決済みである。ですから、韓国政府として、国際法上、違反を是正する。そうした措置をとることを強く求めたいと思います。我が国としては、このような判決が出されることは、断じて受け入れることはできません」
そして今後の日韓関係について、菅義偉は、
「まず、この訴訟が却下されるべきで、そこから始まる」
と述べたと伝えてニュースを終えている。
被害者の人権回復などどうでもいいと考えているのか、NHKは判決に対する被害者側の声は一切伝えず、加害者側の菅義偉の主張を検証もせずに一方的に伝えているだけだ。
毎日新聞(21/1/9)と日本経済新聞(21/1/9)は、それぞれ「韓国の元慰安婦訴訟 対立深刻化させる判決だ」、「国際慣例に反し理解しがたい慰安婦判決」と題する社説で、判決は「主権免除」の原則に反し、「アジア女性基金」(1995年設立)や「日韓合意」(2015年)などでの日本政府の取り組みも無視していると非難している。朝日新聞(21/1/9)は社説では判決の直接の評価はしていないが、紙面全体を通してみると、判決は不当なものだという印象を与えている。
まず「主権免除」について言うと、NHKは「主権国家は他国の裁判権には服さない」のが「決まり」だという菅義偉の発言をそのまま伝えているが、それは国家の全ての行為で裁判権を免除する「絶対免除主義」が有力だったかつての話で、現在の国際社会では、国家の主権的行為以外の私法的・商業的な行為については免除を認めない「制限免除主義」が一般的となっており、日本の最高裁判所も制限免除主義を採用している(最高裁第二小法廷、06//7/21)。また、たとえ国家の主権的行為であったとしても、反人道的な犯罪行為は「主権免除」の例外扱いであり、例外の範囲は、人類の人権に対する考え方の進歩とともに広がり続けている。
日韓請求権協定については、日本政府も認めている通り(例えば、1991年8月27日の参議院予算委員会での外務省条約局長・柳井俊二の答弁)、同協定で個人による請求権は消滅していない。国家間の条約で個人の請求権まで消滅させることはできないというのが国際的な共通認識だ。
日本政府のこれまでの取り組みについては、アジア女性基金も日韓合意も被害者の賛同を得られなかったし、被害者に手紙で伝えた「お詫び」や「反省」の気持ちは口先だけで、外務省のウエブサイトには、日本軍が女性を「強制連行」した証拠はないとか、「性奴隷」という表現は事実に反するなどと説明する「慰安婦問題についての我が国の取組」と題する文書が4か国語で掲載されている。誠意ある謝罪や賠償を行い、被害者の納得を得たのでなければ、加害者である日本側が問題は解決済みだと言うことはできない。
判決が「主権免除」の原則に反するとか、「慰安婦」問題は日韓請求権協定で解決済みだと言って判決を受け付けない日本政府やマスメディアの態度は、時代錯誤も甚だしい。
今、奴隷制度や植民地支配などの不正を改めて問い直す動きが世界的な潮流になっている。大日本帝国時代の性奴隷制度の被害にあった人たちの人権を回復するために、日本政府は謝罪と賠償を行わなければならない。
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