2021年02月05日01時06分掲載
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欧州
フランスの教育委員会、エルドアン大統領の支持者に罵られた教師を見離す Ryoka(在仏ブロガー)
フランスはリヨン5区にある中学校で、たった一人の保護者にイスラモフォビアの烙印を押された教師が自主退職を申し出るという、残念な結末を迎えた事件が起こった。
この事件は一月上旬に同僚が報道機関に明らかにしたもので、1月13日付のシャルリー・エブドにルポルタージュが掲載された。
ルポルタージュによると、事の発端は、2020年11月9日、まだSamuel Paty殺害(※)のショックが冷めやらない中、一人の男子生徒がその教師に、ある動画の話をしたこと。
(※ 日本ではほとんど報道されていないが、2020年10月16日、パリ郊外の中学校の近くで、Samuel Patyという地理歴史教師が、見ず知らずのイスラム過激主義者に斬首されるという、前代未聞の事件が起きていた。原因は、Samuel Patyが、表現の自由をテーマにした授業の一環で風刺新聞シャルリー・エブドの風刺画を生徒たちに見せたこと。その授業をイスラム教徒の生徒が保護者に報告し、保護者がSNSで授業内容を広めたことで、見ず知らずのイスラム教徒にまでSamuel Patyに対する憎悪を煽ったとされる。)
フランス中を駆け巡ったというその動画の中で、マクロン大統領は「イスラム教徒は皆テロリストだ」と話している。しかし、動画は繋ぎ合わせに過ぎず、実際に大統領はそのような発言はしていない。
それを受けて、教師は「動画はフェイクニュースの一つ」であり、「テロはイスラム過激主義者がやったこと」だと生徒たちに説明した。また教師は、トルコのエルドアン大統領は独裁者だとした上で、動画で使用されたフランス大統領の発言は、トルコ大統領のフランスに対する挑発的な言動を受けてのものだと話す。
同日13時15分、教師のクラスに在籍する生徒二人の父親が中学校にやってきた。その父親は、教師を見つけるやいなや「イスラモフォビア」呼ばわりし、エルドアン大統領を批判したことを非難し罵った。
教師はその父親から謝罪を求めるべく、生徒たち(父親の子供二人)と共に個人的に面談したいと申し出たが、父親はそれを断った。
11月13日、教師は、その父親を名誉棄損で訴える。と同時に、管轄のRectorat(日本でいう教育委員会)に司法的な支援を求めた。ところがRectoratは、一度だけ教師に司法的な支援を約束する電話をしたきりダンマリを決め込む。
事件発生から1か月後の12月10日、教師はRectoratと直接対話する機会を得て、「生徒たちを転校させる」、「生徒たちがクラスを替わる」などの案が出されたが、どれも生徒の両親が納得しなかった。残った解決策といえば、教師が他校に移動することだった。
12月15日、問題の生徒のうち一人が、それまでの2週間近くナイフを鞄に忍ばせて登校していたことが発覚する。この件については「波風立たせないように」と何の措置もとられなかった、と同僚の一人が回想している。
12月17日、父親がRectoratと話し合う予定だったが、父親は姿を現さなかった。
クリスマス休暇直前の12月18日、教師は同僚宛にメールを残し、中学校を自主退職した。地方新聞に宛てた手記で、教師は次のように綴っている。「教育の有効性を信じられなくなりました。共和国が共有しない思想を生徒たちに教える気にはなれません。」
一連の事態がメディアで明らかになったのは、クリスマス休暇明けの1月4日のこと。本人不在のまま、全同僚35名がストを起こしたからだ。スト二日目の1月5日、同僚が大学区(教育委員会)に招かれ話し合いがもたれたが、大学区側は「すべてを尽くした」と言うばかりで同僚たちを更に憤らせた。
事件発生から2か月が経った2021年1月8日、大学区は、生徒2名を強制的に転校させる決定を下す。
しかし、時すでに遅し。教師は辞職し、すでに料理人に転職する決断をした後だった。
教師の中学校では、ライシテ(政教分離)に的確な理解を示していた校長が去り、上からの指示に忠実な“真面目なタイプ”の校長が新任していた。前任の校長は、チュニジア出身で強制結婚から逃れた過去があった。だからライシテの重要性は嫌というほど理解していて、2015年のシャルリー・エブド襲撃事件の時には、生徒一人一人と対話する時間を割いたほどだったという。
奇しくも、この事件が起きた中学校は、斬首されたSamuel Patyが教育実習で一年間を過ごした学校だった。
同僚の一人は言う。「これからどうしろと?自粛するしかないの?」
Ryoka(在仏ブロガー) https://mafrance.hatenablog.com/
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