2021年04月09日11時15分掲載
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農と食
鳥インフルと卵の産ませ方 元農水大臣の贈収賄事件を考える 樋ヶ守男
鳥インフルエンザの流行が止まらない。感染鶏が出た農場では全羽が殺傷処分され、そのためにスパーでは卵が値上がりする事態にさえなっている。鳥インフルは収まったかに見えて、またどこかで発生するといういたちごっこが続いている。なぜこんなことが起こるのか、千葉・三里塚で平飼いの養鶏を長年営む樋ヶ守男さんにご寄稿いただいた。現代畜産が抱える矛盾が具体的に指摘されている。(大野和興)
今季、鳥インフルエンザの流行がすさまじい。
十二月十九日までに、西日本十二県で三十件、約三百五十万羽、過去最多の被害更新中だった。そして同じシベリアから東周りの渡り鳥たちが運んだのだろう、十二月二十三日、千葉県いすみ市でも発生した。羽数は百十六万羽、一月十日には同社で近所の「第二農場」にも。今度は百十四万五千羽。そのほとんどは生きていて泣き叫ぶ全部の鶏たちを捕まえ、生命を絶ち地中に埋却する。その作業だけに、家畜保健衛生所など県職員一日千人、自衛隊員も四百五十人が、二十日間動員された。想像だけでも心が折れ吐きそうな作業に従事された方々に、出勤拒否やPTSDなどなければいいがと思う。
報道で映された窓一つない工場のような建物群。「ウインドゥレス鶏舎」である。これまで同種の鶏舎は、野生動物の侵入は防ぎやすいと言われてきたが、今季は岡山・茨城などでも防げなかった。生命あるものの中でしか増殖しないウィルス。その拡大を防ぐため、鶏たちは最後の段階でだけ、生命あるものとしての扱いをされる。そのことが余計に哀れでならない。
アニマルウェルフェア(動物福祉)国際基準引き下げに五百万円の贈収賄事件
鳥インフル多発の頃から、吉川貴盛元農水大臣と大規模養鶏業者らとの贈収賄疑惑が表面化した。今、欧州はじめ世界的にケージ飼育から平飼いへの切り替えが進んでいるのに、日本政府は、バタリーケージ養鶏業界に配慮して反対意見を出し続けた。OIE(国際獣疫事務局)で検討中だった国際規約基準の引き下げに中心的に働いたのが吉川氏だったという。
アニマルウェルフェアとは、動物本来の欲求を妨げることのないように適正に扱うことを科学的に定めた原則のことだ。本来、鶏は一日一万回以上地面をつつき、止まり木で眠り、安全な産卵場所で卵を産み、砂浴びや日光浴、運動をして心身の健康を保つ。しかし、左上の比較表にあるとおり、身動きもとれないケージの中で産卵機械のような一生の鶏たち。産んだ卵も傾いた金網で前方に転がり、ベルトコンベアーで運ばれ、洗浄、選別、箱詰めとすべて機械。働く人が卵に触れることはない。うちでは、卵集め、汚れ落としと選別、卵パックづめと、同じ卵に最低三度は触れる。産みたての卵の温かさ、この卵は誰がどのように食べてくれるか、「子供が弁当で持っていって友達と交換したりして」。
鶏から人への生命のつながりが仕事で実感できる。AI管理、機械まかせで、生命はつなげられるだろうか。
鶏を本来の生命のように扱わないということは、、その卵を食べる人々の健康や生命に配慮しないことでもある。全身に振りかけられた農薬は餌場にも落ち、もともと餌に混ざっている薬と共に卵の中に残り、食べる人に影響する。桁違いに安い遺伝子組換え作物が主要飼料であることも不安要素だ。例えば、私の近所で同じ両親の三人の子供の一人だけ、「市販の卵」が食べられず、ワンパックの卵だけが食べられた。その後両親は引っ越したが、その庭に小さな鶏小屋を作り、うちの廃鶏とうちで配合した飼料で産まれた卵で子供たちを育て続けた。
今回の汚職事件は世界中の人々の健康、生命に関わる基準引き下げを目的とした悪質なものとして、より厳しく罰せられねばならない。また、汚職がらみでねじ曲げられた日本政府の意見を撤回し、適正な基準作りへと、私達も声をあげねばなるまい。
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