2021年06月13日19時49分掲載
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意地を通せば辛い…でも 『茜色に焼かれる』(石井裕也監督・脚本) 笠原眞弓
映画もテレビドラマの撮影も、コロナ禍の中で滞っている。あゝ大変!でもこの映画はマスクをして「今」を演出している。「あの時の映画ね」と何年経ってもわかるかもしれない。あの時の独特の生きにくさ?いや、この生きにくさは、いつの時代にもあると気づかされる。どんな時でも人々は懸命に生きているし、働いても、働いても報われないことが多い。しかも「こう思う」「こうしたい」とこだわればこだわるほどあちこち引っかかる。
「貧困」がやたらと身近にある今、主人公(尾野真千子)は、自ら選んでその中で生きようとする。その不器用さが画面から溢れてくる。
軽快な夫(オダギリジョー)の自転車姿のトップシーンは、続く物語の清々しさを感じさせるのだが…… 。
ブレーキの踏み間違え交通事故の犠牲になって夫を喪(うしな)い、1人で中学生の息子を育てている女性が主人公。その生活を生活費と共に示していく。彼女はかけがえのない夫を値踏みされたような保険金に傷ついて、周りの忠告にも従わず、受け取りを拒否。時々見舞いに行く義父の施設入所の費用も、夫の浮気相手の子どもの養育費も払い続けている。
経営していた喫茶店は、コロナのため閉店を余儀なくされ、再開を夢見つつも、かないそうもない。昼夜働いても間に合わないくらいのなかで、昼間の仕事は理不尽に首になり、夜の仕事だけに。しかもそれもあるきっかけで、自分から辞めてしまう。
その昔、彼女が淡い恋心を抱いていた中学の同級生にバッタリ出会って……。
勝負服を身にまとう母。2度目の勝負服に危機を感じた息子の機転で、母子は社会からの逸脱を免れる。
息子は学校でいじめにあい、母は思うようにいかない日々に葛藤しながらも、まっすぐに生きている。その女友だちは、優しさゆえに辛さにあえいでいる。誰のためのルールかわからないものに縛られて、さらに生きにくい社会。人を追い詰める正義は、凶器にもなる……。
彼らは底辺にいるにも関わらず、一方的暗さにならないのは、それを自ら選んでいるからなのか。
主人公の愛に裏付けられた母の強さをつくづく感じながら、映画館を出ると、空は茜色だった。
計り知れない伸びしろを持つ石井裕也監督の感性に舌を巻いた。彼の昨秋に封切られた『生きちゃった』、近日封切られる韓国との合作映画『アジアの天使』(7/2テアトル新宿他)も捨てがたい作品だ。オダギリジョーと池松壮亮、『金子文子と朴烈』のチェ・ソルなどが出演している。
144分/5月21日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国で上映中
(「消費者レポート」より加筆転載)
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©2021『茜色に焼かれる』フィルムパートナーズakaneiro-movie.com
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